第14話

3-14.mp3 都内某病院。 病棟ナースセンターにひとりの男が姿を表した。 手元の用紙に面会先と自分の名前を記入した彼は、近くの看護師にそれを渡した。 ノック音 部屋から何の音も聞こえない。 彼はそっと扉を開いた。 医療機器の音 カーテンを開けると ベッドの上でパソコンの画面を覗く患者がそこにいた。 「最上さん。」 ちらりと訪問者の方をみた彼はそのまま画面を見る。 「あぁ君か。」 「どうですか。」 「良くないね。」 「そうですか…。」 「非常に良くない。」 「そんなに…ですか…。」 「ああ。」 「先生はなんと…。」 「え?」 「え?」 「あ…。」 「あ…。」 最上はくすりと笑った。 「すまないね。心配懸けてしまって。体の方は別になんともない。」 「あぁ…そうですか。よかった。」 「ただ喉が渇くんだよ。最近。」 ベッドテーブルには500ミリリットルのミネラルウォーターが置いてあった。 「喉ですか…。」 「まぁ入院するくらいだから、どこかぶっ壊れてるさ。」 「ふっ…。」 「僕が良くないって言ったのはこっちのほうだ。」 そう言うと最上は手招きをした。 そばに寄った彼は最上が指すパソコンの画面を覗き込んだ。 「これは…。」 「例のSNSコミニュティ。」 「立憲自由クラブですか。」 「ここの論調が過激化してるね。」 「先日の国会前でも動員に相当の影響力を行使したと報告を受けています。」 「ここが呼びかけするだけで全国各地か…

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第13話

3-13.mp3 「お疲れ様でーす。」 昼、外から帰ってきた京子は担いでいたバッグパックを雑に床において、椅子に座った。 パソコンのスリープモードを解除したときのことである。 京子はちゃんフリ報道部の様子がいつもと違うことに気がついた。 「あれ?」 平日午前のフロア内にはキャップである三波ひとりを除いて誰もいなかった。 「キャップ。」 「うん?」 「どうしたんですか。みんな出払っとるみたいですけど。」 「あぁたまたまじゃないの?」 彼女は社内行事や各社員のスケジュールを一元管理するツール「プロツェス」にアクセスした。 今日は特別な行事や会議もない。 「片倉。」 「はい。」 「噂で聞いたぜ。」 「…え?」 「なんだか自腹で外注使ってネタあげようとしてるらしいじゃん。」 「…三波さんには関係のない話です。」 京子はキャップである三波につっけんどんな対応をした。 「あのさ…片倉…なに警戒してんの?別に俺、お前のネタいっちょ噛みさせてくれって言ってんじゃないよ…。」 「…じゃあ何なんですか。」 「お前がデスクからどんな話聞いてるのか知らないけど…あのときの俺と今の俺は違うの。」 「…。」 「北陸新聞テレビのポジション蹴って、こんな小さな所帯に来たんだぜ。」 「はい…。」 「それに俺の働き評価されてなかったら、キャップなんてポジションもらえないだろ。」 「…まぁ。」 はっきりとしない返事をする彼女は明らかに自分を信用していない。ネタであれ本気であれ…

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第12話

3-12.mp3 充電ケーブルに繋がれた枕元のスマートフォンを軽くタッチすると時刻が表示された。 午前5時である。 椎名はそれを手にしてベッドから身を起こした。 そのまま彼は部屋の電気をつけることなく、着替えを手にして風呂場に向かった。 シャワーの音 ー新幹線のあれが何者かによる何かの実験のようなものって線はだれだって思いつくし、実際それっぽいこと言ってる奴は既にいる…。だがどれもがざっくりとした観念的なもんだ。そんなものは別に問題じゃない。 ーだがKの見立ては違う。 ー今回撒き散らされたのは人糞。その量は一度の排便によるものとは思えない量だった。これが示すのは2つの可能性。ひとつははじめから撒き散らすつもりで外部からそれを持ち込んだ可能性。もうひとつは二人以上の人間が別々の場所で排便した可能性。後者の場合、便所じゃない場所で排便をすることになる。排便には一定の時間を要する。そのため人目に触れないようにそういった行為をするのは、他人から目撃されやすくリスクが大きい。できることなら避けたいはずだ。となると前者の外部から持ち込んだ説をとるのが有力だ。 ー外部から持ち込んだとすると、これは重要な意味を持つことになる。少なくとも現在の日本の鉄道においては基本的にどんなものでもノーチェックで持ち込みが可能であるということだ。 ー正解だよ。正解。人糞ってのは臭いがする。俺らはこの臭いに対する周囲の反応を知りたかったんだ。無臭の神経剤は周囲のどれだけの人間に影響を及ぼすか、出たとこ勝負さ…

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第11話

3-11-2.mp3 自宅に帰って来た椎名は着替えてそのままベッドの上に寝転んだ。 「なんか寒いな…。」 ボソリと独り言をつぶやいて頭から羽毛布団をかぶった彼はその中で携スマートフォンを操作し始めた。 SNSアプリを立ち上げ、チャットのような画面を表示させるとテキストを打ち始めた。 「お世話になっております。第一回放送分のプレビュー版は今週末にはお見せできます。」 間もなく京子からレスポンスがあった。 「了解です。データはストレージサービスを利用するか何かで送ってもらえますか。」 「いや、ちょっと容量が大きいので、直接お渡ししたほうが確実かと思います。」 「わかりました。DVDに焼いてください。弊社はUSBでのデータ受けは禁止されていますので。」 「かしこまりました。どこでデータの受け渡しをすればよろしいですか。ご指示ください。」 「休日にわざわざ弊社までご足労をいただくのは恐縮ですので、私がご自宅まで取りに伺います。」 「家はちょっと…。」 「じゃあ近くのどこかで。」 「またBOCTOKにしましょうか。」 「いいですよ。」 日時を改めて確認し、椎名は携帯をスリープ状態にした。 そしてベッドから身を起こして部屋の電気を切り、再びそこに潜り込んだ。 布団を頭からかぶった彼は枕の下を指で探り、何かを掴んだ。 そしてスマートフォンのSIMカードを抜き取って今掴んだものを差し込み、再びそれを見る。 今度は京子とやり取りしたものとは別のSNSアプリを立ち上げ、それ…

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第10話

3-10.mp3 夜。 自宅近郊某牛丼チェーン店の駐車場に車を停めると、椎名はいつものことのように財布と携帯だけを持って店に入った。 入店前に食券を買い、扉を開くと威勢のいい声で「いらっしゃい」と来店を歓迎された。 店内のカウンター席は客・空席・客・空席と規則正しく、間隔を開けて埋まっており、椎名はこの隙間のどこかに座ることを余儀なくされた。 彼は入り口から一番奥の空席に座った。 「いらっしゃいませ。冷たい水と熱いお茶どちらにしますか。」 店員が椎名に声をかけた。 「熱いお茶で。」 そう言って食券を渡すと店員が大きな声でオーダーを厨房に伝えた。 茶を啜る音 「どうした。」 「接触完了。」 「聞いている。」 「K(カー)は察知している。」 「なんだって…。」 「特課の娘だから、さもありなん。」 「で。」 「プランB(ベェ)。」 「うん。」 「おまたせしました。豚焼肉定食です。」 椎名は定食がもられた盆を受け取った。 テーブルに備え付けられていたドレッシングをサラダにかけて、椎名はそれを頬張った。 「今後の接触にもBOCTOKを使ってくれ。」 「Да」 「あそこは信頼できる。」 「そうか。でも客が多いぞあそこは。Я вижу Но там много клиентов.」 「だから良いんだ。」 「…なるほど。Понимаю」 「木の葉を隠すなら森の中。」 こう言って椎名の隣に座っていた男は、食事を終えその場から立ち去った。 味噌汁を…

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第9話

3-9.mp3 金沢市郊外の図書館には新年度が始まったばかりの穏やかな時間が流れていた。 タートルネックのニットにジャケット姿。ジーンズを履いている足元は革のサイドゴアブーツ。 小奇麗な出で立ちの彼は自習室で何かの本を開き、ノートにペンを走らせていた。 空閑である。 「ふう~。」 本を閉じた彼は机の上を片付けて席を立った。 本を元の位置に戻して図書館を後にすると彼は携帯電話を耳に当てた。 「私だ。」 「現代建築の文学的考察に。」 「ああ。」 「…何?」 「わかった…今晩会おう。」 携帯電話を懐にしまった彼は車に乗り込んだ。 「椎名が…。」 エンジンを掛けるとダッシュボードに組み込まれた時計が15時を表示した。 ---------------------------------------- 「ふーん…。」 自宅の畳に座ってなにかの書類に目を通す古田の鼻には老眼鏡が乗っていた。 「で、なんでまたこの光定ってヤツは、こんな田舎の大学病院なんかに来たんや。」 「東一の水が合わんかったようなんです。」 「水が合わん…か。」 「ええ。まぁ結局のところ人間関係がうまく行かんかった。それが原因のようですよ。んで大学時代の恩師でもある石大の天宮(あまみや)教授を頼って、ここの大学病院に来た。」 「それが去年。」 「はい。かつての久美子の担当医である曽我は心療内科の世界では名の通った医師です。彼の研究論文は世界的にも評価され、先ごろは科学雑誌にもそ…

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第8話

3-8.mp3 ネットカフェの個室で漫画をまとめ読みしていた椎名の携帯が震えた。 いくら個室と言っても薄いパーテーションで仕切られた空間。 ひとたび携帯電話で話そうものなら、周辺の部屋から壁ドンの抗議が舞い込んできそうだ。 彼はトイレの方に移動してそれに出た。 「はい。」 「あっ。椎名賢明さんのお電話ですか。」 「はい。」 「わたくし、ネットメディアのちゃんねるフリーダム記者の片倉京子と申します。弊社カメラマンの安井の紹介でお電話いたしました。」 「ちゃん…フリですか?」 「ええ。」 「あ…はぁ…。」 「突然お電話して申し訳ございません。実は椎名さんに折り入ってお願いがあってお電話したんです。」 「え?」 「実はとある情報を今度ちゃんフリの番組内で放送しようと思ってるんですが、なにぶん弊社の制作技術者がいっぱいいっぱいで、外部に委託する必要性が出てきたんです。ついては椎名さんにご協力いただけないかと思いまして。」 「え?協力ですか?」 「はい。」 「協力って、具体的にどういった…。」 「安井からは椎名さんは映像の編集に優れた能力をお持ちだと聞かされています。」 「…。」 「え?椎名さん?どうしました?なんだか電話が遠いようですが。」 「あ。す、すいません。急なお電話でしたのでちょっと動揺してしまいました。っていうか…安井さんってちゃんフリの人だったんですか。」 「あ、ご存じなかったんですか。」 「はい。」 「あのーどうしょうか椎名さん。」 …

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第7話

3-7.mp3 圧制下のツヴァイスタンから命からがら逃げてきた自分に待ち受けていたのは、 自由とはとうてい言えないものだった。 何をするにもどこかで誰かの目が光っている。 この感覚自体はあの国にいたときとそう変わらない。 自分は本当の監視社会を身をもって知っている。 ツヴァイスタン人民共和国オフラーナ(охрана)。 彼の国の秘密警察である。 どれだけの人員がその組織に所属し、具体的にどういった任務を担っているのかは誰も知らない。 ある日突然、近所の気のいい男が彼らに連行されるところ。 なんの前触れもなくそのあたりの人間が射殺されるところ。 公衆の面前で何らかの容疑をかけられた人間がリンチされるところなど。 自分がそのオフラーナと言われる組織の活動を目の当たりにするのはこういった結果の部分だけだった。 オフラーナに隠せることなど何一つない。 なぜならツヴァイスタンには密告制度が確立されているからだ。 たとえ家族であっても反体制分子たる予兆を発見すれば、それは密告される。 なぜならその密告を怠ったことで、家族全員が処分されるなんてことはザラであるからだ。 24時間365日。一瞬も気を抜けない。 常に監視の目が光っている。 あのときと似た空気が自分を覆っている。 そう椎名は感じていた。 しかしこの国の監視はあの国のものとは決定的に違っていた。 ある日突然あらぬ疑いをかけられて、その場で逮捕。拷問の末に裁判なしの死刑なんて処分はない。 気がついたら…

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第6話

3-6.mp3 石川大学病院の会計待合にひとり佇む男がいる。 彼は会計処理完了の表示をするモニターと並んで設置されたテレビの画面を見ていた。 「人が乗っていた痕跡が確認されないことから、ハングル文字が書かれたこの船は朝鮮半島より何らかの形で流れ着いたものとして警察は捜査しています。」 朝鮮籍の船が漂着した一昨日のニュースが端的に報じられ、次のニュースに移った。 男は周囲を見回す。 自分と同じ高齢の人間が多いこの空間で、ほとんどがスマートフォンに目を落としていた。 人間は放っておいても賢くなるとよく言ったものだ。 かつてはスマートフォンのような難しい機械操作は若い世代にしか対応できないと思われた。 一定の年齢層には受け入れがたい代物だと思われた。 しかし今はどうだ。老いも若きも男も女も暇さえあれば手元で5インチ程度の液晶画面を見ている。 受付番号が表示されると彼は窓口に向かった。 「今日は3,800円です。」 彼は携帯電話を係の女性に見せた。 「電子マネーですね。どちらのお支払いですか。」 「TD(ティーディー トチカディンギ)。」 携帯電話をリーダーにかざすと決済音が鳴った。(ディンギ♪) 「お薬は院外処方となっています。どちらの薬局さんでもこの処方箋を見せればお薬処方されますので…。」 病院正面玄関を出ると春のものとは思い難い冷たい風が吹き込んできたため、彼は思わず身をすくめた。 「さみぃなぁ…。」 MA-1ブルゾンのジッパーを上げて、ニット帽を深…

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第5話

3-5.mp3 2015年8月。 鍋島事件から1年後の都内某所。 通報を受けて現場である路地裏に駆けつけた交番勤務の警官二人は、そこから天を仰ぎ見た。 「おい…何だあれ…。」 視線の先にあるマンション屋上から張り出した鉄骨の先。そこからロープのようなもので何かが吊るされている。 「おい。あの吊られてるあれ…。」 「はい…。」 「あれって…あれだよな…。」 「た、多分…。」 こう答えた警官は思わずその場で嘔吐しだした。 「何だよ…あんなの…見たことねぇぞ…。」 「どうした。何が見える。」 無線から所轄署の音声が聞こえた。 「首…。」 「え?」 「生首がマンションの屋上から吊るされてる…。」 「なに…。」 「しかも…。」 「しかも?」 「顔の形が判別できないくらいに痛めつけられている…。」 「…。」 「なに?顔がぐちゃぐちゃやって?」 片倉肇は、部下からもたらされた事件の概要を聞いて思わず声を上げてしまった。 「はい。」 「またか…。」 「ええ…またです。」 「んなら、あれか。」 「はい。ホシは出頭済み。いまは留置所です。」 「…今度は大丈夫ねんろ。」 「わかりません。念には念を入れた対応をしているそうですが…。」 電話が鳴る音 「はい。マルトク。はい。…ええ…はい。…そうですか。」 元気のない声で受け答えすると、男は電話を切った。 「死にました。」 この報告に片倉は口をつぐんだ。 「留置所から取調室へ移動する際に…

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第4話

3-4.mp3 「今日はこれまでです。皆さん気をつけて帰りましょう。それじゃあおつかれさまでした。」 30名ほどいた教室内の塾生たちは一斉に片付け始めた。 「先生。」 白板を消していた空閑(くが)は後ろから声をかけられたため振り向いた。 「おー千種(ちぐさ)くん。久しぶりですねぇ」 「どうも。」 振り向いた空閑はずり落ちた少し色の入ったメガネを指でクンッと押し上げた。 「どうですか大学は。」 「いや…やっとこついて行ってます…。」 「あ…そうだ。」 そう言うと空閑は帰路につこうとする生徒たちを呼び止めた。 「みんなー聞いてー。彼は千種くんです。以前ここで一緒に勉強していたみんなの仲間です。」 ほらと言って千種に挨拶をするように促す。 「どうも。こんばんわ。千種賢哉(ちぐさけんや)です。」 「千種くんはいまは石大医学部の三年生…でしたっけ?」 「はい。」 カバンを担いだ状態の生徒たちから「すげぇ」という驚嘆の声があがった。 「いまは医学部生の千種くん。実はこの塾に来たとき彼はどこの大学にもいけませんって状態だったんですよね。」 「は…はい…。」 生徒たちから「嘘だろ」とか「冗談だろ」との声が聞こえる。 「でも千種くんは頑張りました。このままじゃ駄目だって一念発起したんです。先生は特別なことはしていない。千種くん自身がひたすら頑張ったんです。頑張るうちに彼はコツを掴みました。コツを掴んでしまえば今まで嫌いで仕方なかった勉強も、むしろ楽しくなりました。高…

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第3話

3-3.mp3 「今月も変わりなし…と。」 手慣れた様子でキーボードをカタカタと操作した富樫はそのエンターキーを押下した。 「ふぅー。」 ブラウザを立ち上げた彼はニュースサイトを表示させた。 トップを飾るのは国会議事堂前に集結した10万人規模のデモ行動を讃える記事だった。 ツヴァイスタン絡みのあの事件から6年。 事件後、下間芳夫の証言から仁川征爾の生存が明らかになった。 彼の証言によるとツヴァイスタンに拉致されたのは仁川征爾だけではなかった。 少なくとも300名ほどの日本人があの国に不法に拉致されているとのことだった。  政府はこの情報をすぐさま官房長官記者会見で発表。 国民はツヴァイスタンの非道に激怒した。 拉致被害者を実力行使で奪還せよとの世論が盛り上がった。 ときの政府はこの沸騰する国民感情を受けて、拉致被害者奪還を公約に掲げた。 公約実現に必要なのは先ずは予算だ。 政府は国債の発行によって財源を捻出した。そして安全保障関係予算の大幅な拡充を行った。 予算は国家の意思と言う。 具体的な政府の政策に国民は喝采を送った。 しかしあれから6年。未だ拉致被害者奪還はなされていない。 遅々として進展しない状況にいよいよ国民から抗議の声が上がった。 それが今回のデモだ。 しかしこの間、政府は無為無策であったわけではない。 事実、安全保障関係の予算は倍増した。 装備・組織・人員などの強化充実は確実に図られていた。 防諜体制の整備においては念願のスパイ防止…

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第2話

3-2.mp3 「消防によると昨日、金沢の犀川河川敷で起こったガス爆発は、使用されていたガス器具が何らかの不具合を起こしたために引き起こされた事故であるとのことです。警察は当時ガス器具を使用していた人物の回復を待って詳しい事情を聞くこととしています。」 ベッドから身を起こしてテレビを付けると、昨日の犀川での爆発事件の様子が全国ニュースで報じられていた。 「同時に警察は、自爆テロとしてSNSでデマが流布されたことに重大な関心を示し、当時の投稿動画などの分析を行っています。」 テレビを背にした椎名はノートパソコンを開いた。 そしてデスクトップ上のとあるフォルダを丸ごとゴミ箱に入れてそれを空にした。 続いて動画編集ソフトをアンインストールした。 パソコンの下部に表示されている時刻は8時半だった。 「さてと…。」 寝癖頭をボリボリと掻いて、彼は洗面所に向かった。 水を流す音 歯を磨く音 顔を洗う音 ふと鏡に映り込む自分の顔を見ると、目の下にくまが出ていた。 鏡に顔を近づけると自分の顔にシワらしきものの片鱗が現れていることに気がついた。 携帯のバイブの音 携帯を手にした彼はそれに出た。 「おはようございます。」 「あれ。今日はなんか元気ですね。」 「いえ…そんなことありません。」 「今日もよろしくおねがいします。」 「ええ。いつも通り伺います。」 「じゃあよろしくおねがいします。」 「はい。よろしくおねがいします。」 携帯をテーブルの上においた彼はクロ…

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第1話

3-1.mp3 車に乗り込む音 エンジンを掛ける音 発進する音 ジングルが流れ、それっぽいテイストのニュースに仕上げる 「ちゃんねるフリーダムを御覧の皆さんこんにちは。「ニュースを読む」のコーナーです。今日も気になるニュースをゲストコメンテータの方と、深く掘り下げてお届けしようと思います。今日も司会を務めさせていただくのは小野原教行(おのはらのりゆき)です。」 「本日のゲストは毎週金曜担当の評論家の大川尚道(おおかわなおみち)さんです。大川さん本日もよろしくおねがいします。」 「大川です。よろしくお願いします。」 「今日、大川さんと掘り下げるニュースは「拉致問題」です。」 小野原ニュースを読む 「先ごろ政府のもとで行われた有識者会議では、自国民保護の名のもとに自衛隊を派遣し、拉致被害者の奪還作戦を実行するのは自衛権の範疇にある行為であり、現行憲法下で可能であるとの見解が示されました。この見解を下に、政府は今後米国と連携して、該当国にさらなる圧力をかけていく方針です。一方、国民の間にはこの政府の方針は軟弱であると不満が上がっています。先日も首相官邸前で早期の実力行使を求める1万人規模のデモが行われました。しかし政府は時期尚早であるとして今すぐの実力行使をするつもりはないとのことです。」 「大川さん。大川さんはこの動きをどう捉えられますか。」 「国際社会を説き伏せるための下準備がまだだってことです。ほら勝手に作戦行動なんか起こしてみなさいよ。日本をよく思っていない国から…

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