第15話 後半
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帰国当初は日本語をほとんど話すことができず、卓は碌な仕事につくことができなかった。
これではとても生活していけない。そこで卓は裏稼業に手を出した。マフィアの小間使いをしてその日暮らしの金をなんとか手に入れた。
地べたを這いつくばる生活をする中、彼は尚美と出会う。恋に落ちた二人は駆け落ちした。
流れ流れてここ石川県にたどり着いたころ、尚美の妊娠が発覚。
周が生まれた。
この子だけは残留孤児という生まれながらの不遇を理由に、自分と同じ目に合わすことはできない。
そう考えた卓はこの地でゼロからのスタートを尚美とともに切った。
だが事はうまく運ばなかった。
残留孤児二世ということで世間の同情を買うことはできたが、それと仕事につくことは別。
彼を積極的に雇い入れるほど、世間は寛容ではなかった。
結果、ここでも卓は仕事に恵まれなかった。
朝晩、アルバイトを掛け持ちし寝る間を惜しんで働いた。
尚美もパートと自宅でできる内職仕事をこなすことで、相馬家の生計はなんとか成り立っていた。
周が10歳の頃、一家の大黒柱である卓が倒れた。
無理が祟ったのだ。
とたんに相馬家は資金繰りに窮する。
経済的救済を求めて尚美は駆けずり回った。
ありとあらゆるツテを頼ったが、それは徒労に終わった。
万策尽きすべてを諦めかけた、そのときのこと。
相馬の窮状を聞きつけてある男が家を訪ねてきた。
本多喜幸の元で書生生活を送っていた28歳の村上隆二である。
残留孤児問…