第19話

3-19.mp3 駐車場に止めた車の中でテレビを見る者がいた。 彼が手にする携帯にはある掲示板のオカルトスレッドが表示されている。 そこでは東倉病院のテロに関して ユダヤの陰謀、イルミナティの仕業、預言者のとおりだ などの話題が噴出していた。 ー想像力たくましいのは結構ですけど。エビデンス抑えましょうよ。ね。 彼は別のスレッドを表示させた。 それが立てられたのは今日の朝。 激ウマコーヒーが飲める店を晒せというスレッドである。 店名とその所在地、そこで提供されるコーヒーの特徴が端的に書き込まれている。 彼はスレッドをスクロールさせ、39番の位置でそれを止めた。 東倉珈琲店 東京中央駅西口 コインロッカー側 多くの人を魅了する芳醇な香りが特徴 ひとたびそれを口に含むと天国への階段をのぼるような高揚感すら感じる味 ー抽象的すぎてたどり着けないだろうけど…。 携帯の上部に通知が入った。 「どうですか。はじめての直接的な接触は。」 鼻をすすった彼は器用な指付きでフリック操作をする。 「やはりライブは違いますね。」 「何か新しい発見はありましたか?」 「興奮が抑えきれなくて、冷静に観察できていません。来月の診察時にテストをしてみようと思います。」 「そうですか…。」 「どうしました?」 「いや…仕事が早い光定先生のことだから、早速成果を挙げたんじゃないかって勝手に思ってました。」 「…すいません。ちょっと舞い上がってし…

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第18話 後半

3-18-2.mp3 テレビをつけると東京で起こったテロ事件に関する報道番組が流れている。 リモコンで他のチャンネルを選択するもどこの局も特別編成の番組を放送していた。 いま世の中はこの話題で持ちきりだ。 椎名はテレビをつけたままキッチン壁に背を向けて椅子に腰を掛け、携帯を触りだした。 ー誰か入った…。 彼の顔は携帯の液晶画面に向いているが、視線は部屋の真ん中の床にあった。 ー部屋の真ん中に落とした3本の髪の毛。うち1本がどこかに消えている…。 椎名は背伸びをした。 「ん〜…。」 再び彼はテレビの前に立ち画面を見るふりをして、視線だけを部屋全体に移動させた。 ー何をした…。カメラの位置を変えたか…。それとも盗聴マイクでもいじったか…。 目だけで部屋を調べたところ不審な点はない。 「えー新しい情報が入りました。警察によりますと今回テロに使用されたのはノビチョクといわれる神経剤のようです。繰り返します。今回東倉病院において発生したテロ事件で使用されたのはノビチョクであるとのことです。ノビチョクは旧ソ連が開発したとされる神経剤の一種で、その毒性は…VXガスの5倍から8倍はある…とのことです。あの…垂石(たるいし)さん…ノビチョクって…。」 報道番組の司会者がコメンテーターに振る。 「…ええ。英国でその神経剤が使用された暗殺事件があったのは記憶にあたらしいところです…。」 「あのときは確か事件の背景にツヴァイスタンがとか……

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第18話 前半

3-18-1.mp3 「大丈夫です。心配ありません。この調子なら雄大くんは石大ぐらいの国立は楽勝ですよ。」 「そうですか…先生がそう言われるなら...安心しました。」 「お父様は心配症ですね。」 「…よく言われます。」 「'`,、('∀`) '`,、 」 ここ空閑教室では我が子の入試対策の進捗ぶりを確認するために、保護者が講師である空閑と面談する機会が定期的に設けられている。今日も夜の9時という遅い時間にもかかわらず、保護者面談が行われていた。 「ところで雄大くんはお家ではどんな感じなんですか?」 「家では自分の部屋にこもっていて、基本的にそこから出てくることはありません。」 「…お父様との会話は?」 「学校関係とかここのとかの報告、連絡はしてくれます。ですが日常的な他愛もない話とかはほとんどすることはありません。」 「…そうですか。」 「雄大には学業に専念してもらうために、家事は私が全部やっています。あの子は学校とこの塾で勉強だけやればいい。そういう環境を整えているつもりです。ですが…やはり時々心を閉ざす傾向があるようです。」 「…。確かにお父様は頑張ってらっしゃる。奥様と離縁されてからも男でひとつで雄大くんをここまでにしたんだ。頭が下がります。」 「あぁありがとうございます。」 「正直な感想ですよ。」 「しかし…親の苦労子知らずですかね。」 「いけません。」 「ん?」 「いけませんよ。お父様。そんなことは思っていても口に出しちゃいけません。」 …

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第17話

3-17.mp3 ドアを閉める音。 洗面所に走ってそこで手を洗い、うがいを激しく行う。 「はぁはぁ…はぁ…」 息を切らす。しばらくしてそれは収まりつつあった。 ーあれ?なんで俺、ここで手ぇ洗ってんだ…。 携帯電話を取り出してそれを見る。 時刻は16時半だ。 「…えっと…俺、何やってたんだっけ…。」 携帯のメッセージ履歴を確認するも今日の昼から今に至るまで、自分以外の誰とも連絡をとった形跡がない。 そこで彼は通話履歴を見た。 どうやら今日の朝に電話をしたようだ。 「キング…。」 そう言うと彼は頭を抱えた。 「確か…朝早くにキングと電話した。けど俺…あいつと何話してたっけ…。」 激しい頭痛が彼を襲ったため、手にしていた携帯を床に落としてしまった。 回想 携帯が震える 再びそれを手にした彼の動きは止まった。 「紗季…。」 「慶太どうしたの?大丈夫?」 扉越しに心配そうな声で彼の名を呼ぶ声が聞こえた。母である。 「え、いや…なんでもないよ。」 彼はとっさに携帯をポケットにしまった。 「なんでもないって…何か落ちた音したわよ。」 「そ…そう?」 「それに帰ってきたと思ったらドカドカって乱暴に洗面所に駆け込んで。」 「あ…そうなの?」 「そうなの?って本当に大丈夫。」 「あ…う、うん。大丈夫だよ。心配しないで。」 「心配するわよ。紗季の名前つぶやいてるし…。」 「紗季の名前…

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第16話

3-16-1.mp3 「おい。あの空飛び回っとるハエどうにかせいま。」 「はい。」 片倉は化学防護隊の出動と同時に自らも現場にいた。 「片倉班長。」 背広姿の男が片倉に声をかけた。 「これは百目鬼(どうめき)理事官。わざわざ現場までご足労おつかれさまです。」 「どういうこと?これ。」 「見てのとおりです。」 「見ての通りって…他人事みたいに言うね。」 「申し訳ございません。そんなつもりはなかったんですが。」 ヘリコプターの音 「理事官。あの上でうるさいあいつ、なんとかできませんかね。」 「いまやってる。」 「さすが。」 百目鬼は片倉に自分の車に乗るよう合図した。 ドアを閉める音 「松永課長は警視庁だわ。」 「重要参考人ってわけですか。」 「うん。」 百目鬼はタバコを咥えてそれに火をつけた。 「自分もいいですか。」 「うん。どうぞ」 「失礼します。」 煙草を吸う音 "警視庁から各局、本日15時25分ごろ1方面管内、東倉病院において化学物質を使用した ゲリラ事件が発生した。本件につき15時57分、6キロ圏配備を発令中である。 全警戒員は速やかに立ち上がり、G配備(ゲリラ配備)に定められた所定の警戒を実施されたい。 ただし、実施署は23区内とする。動員体制は全署甲号(キロ圏配備の動員数は各署動員可能な最大限の人員を意味)とする。 各署リモコン担当者(無線担当者)は G配備に定められた警戒方法…

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