第24話
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「予約した椎名です。」
こう言って椎名はボストークの店主である髭面の男にメモ用紙の切れ端を手渡した。
「急げ。」
店主は黙ってうなずき、それをポケットの中にしまった。
「お連れ様は先に奥の席にいます。」
「もう?」
「はい。10分ほど前に。」
店の奥を見るとショートカットの女性がうつむき加減で座っていた。
「寝てます。」
「寝てる?」
「ええ。ほら。」
座ったまま体を時折前後する船を漕ぐ状態である。
「片倉さん。片倉さん。」
近づいて名前を呼ぶも返事がない。
「困ったな…。」
相手が男なら肩をさすったり、叩いてみたりして物理的接触で起こすことはできるだろう。
しかし目の前の人間は女性だ。しかもこの間仕事で初めて会った程度の付き合いの女性。触れて起こそうものなら、下手をするとセクハラ事案に発展しかねない。
ふと椎名は足元に目をやった。
彼女はスニーカーを履いていた。
ーちょいとゴメンよ。
椎名は彼女のつま先を強めに蹴った。
「うあ?」
「片倉さん。」
頭を上げた彼女は寝ぼけなまこだった。
「椎名です。」
「あ?」
店の照明の影響か彼女の頬はなにやら光っている。
椎名は目を細めてその部位を凝視した。
「片倉さん…よだれ…。」
「へ?」
「よだれ垂れてます…。」
「え?」
素手で自分の頬を拭うと何かを悟ったのか、彼女は顔を赤らめた。
そ…