第28話

3-28.mp3 週末になると金沢の市街地は急に人口密度が高くなる。 それも北陸新幹線の開通が劇的な観光客の増加をもたらしたためだ。 史跡名勝、文化施設には見たこともないほどの人たちが集う。 金沢の中心部にある現代美術館もそのひとつ。 開館当初からこの施設の客の入りは多かった。しかし新幹線開業を受けてその数はさらに多くなった。 週末となれば入場のために列を作るのはあたりまえだ。 椎名はこの観光客であふれかえる場所にある、ウサギの耳のような形をした椅子に腰を掛けていた。 「金沢に来る?」 「うん。」 「急にどうしたんだよ。」 「疲れてしまったんだ…。」 「あれかい…。」 「わかんない。なんだか頭痛がひどくってさ。ときどき割れるみたいに痛むんだ。」 「やっぱりじゃん。バイトの掛け持ちが祟ったんじゃないの。」 「そうかもしれない。」 「でも、こっちに来てどうすんのさ。」 「別にどうもしないさ。親父の実家のあたり見てみたくなっただけ。」 「え、おまえの親父って金沢の生まれだったの?」 「あれお前には言ってなかったっけ。」 「うん初耳。」 「一応親戚も金沢にいるんだけど、ほら俺フリーターじゃん。そんな身分でぶらっとそこ尋ねていくのも、ちょっと厳しいだろ。」 「あ…うん。」 「だからちょっとお前に頼ってみようかなってさ。」 ーまずいな…。都内の実働員がひとり欠ける…。 「なぁだめか。」 「…あ、いや、別に。」 「そっか。助かる。」 …

続きを読む

第27話

3-27.mp3 「実験ですか…。」 「おう。」 「まぁ確かにそんなこと言ってますが、文脈から言って何ら不審な点はありませんけど…。それに実験って言葉はどこでも使用されますよ。」 「うん。」 「自分は曽我に対してはむしろ医師にしては珍しく正直で謙虚だって印象です。古田さんはちょっとその実験ってワードに神経質になっとるんじゃないですか。」 古田はタバコを咥えた。 「そうなんかもしれん。けどな。」 「けど?」 「そのどっか引っかかるっちゅう、妙な感覚がワシを動かせ、ひょんなもんにぶち当たることがある。」 「え…。」 「相馬。おまえ曽我のこと正直で謙虚っちゅうたな。」 「はい。」 「謙虚でもなんでもない。」 「はぁ。」 「曽我はなんにもわかっとらんがや。」 「何もわかっていない?」 「ああ。」 古田は1枚の写真を相馬に見せる。 「誰ですかこれ。」 「光定公信。」 「光定公信?」 「いま現在の山県の主治医。つい最近、山県の主治医が曽我からこの男に変わった。」 「この男がなにか。」 「結論から言うといままでの山県の対応は曽我ではなくこの光定が実質的にやっとったっちゅうことや。」 「え?」 「これ。」 そう言うと古田はさらに一枚の写真を見せた。 「これは?」 「天宮石川大学医学部名誉教授。曽我の上司であり光定の恩師。」 「この老人がどういった…。」 「天宮憲之(のりゆき)。東京第一大学出身の神経内科の専門。助教としてあの…

続きを読む

第26話

3-26.mp3 2015年。 鍋島事件から約1年がたったGW。 病院敷地内の人の姿はまばらだ。 石川大学病院の職員通用口から男が出てきた。 身長は170センチ程度。年齢は50代なかば程度と思われる銀縁ネガネをかけた男だ。 眉間にシワを寄せどこか神経質そうな表情の彼は携帯電話を触りながら駐車場へ進む。 リモコンで車のロックを解錠すると、近くの外国車のハザードランプが明滅した。 車の横に立った彼は手にしていたリュックを後部座席に投げ入れ、運転席に乗り込んだ。 ドアをノックする音 運転席を覗き込むように立っている老人がそこに居たため、彼はぎょっとした。 「あぁ…驚かしてしまってすんません。」 パワーウィンドウが開く 「何なんですか。あんた。」 「お忙しいところすいません。わたくしこういうもんでして。」 老人は警察手帳を彼に見せた。 「曽我遼平さんですね。わたくし県警本部の藤木と申します。ちょっとお話を伺いたいのですが。」 「いまですか?」 「はい。」 「…忙しいんですよ私。」 「いまからご帰宅なのに?」 「え?」 「え、だってGWの真っ只中ですよ今は。普通病院はお休み。ほんなんに曽我さん。あなたは出勤や。なんかわからんけど仕事が溜まっとってんろう。あなたはそれをようやく片付けた。だからここを出れる。そうでしょ。」 「まぁ…。」 「やっと羽を伸ばせる。これから4連休。ゆっくり休んでください。そんなお楽しみの前、最後の最後でち…

続きを読む

第25話

3-25.mp3 「班長。いまどちらですか。」 「ちょっと頭ん中整理すっために外に居る。」 「お戻りは。」 「やわら戻る。何かあったか。」 「石川から報告です。」 「何や。」 「椎名のところの監視カメラと盗聴マイクをアップデートして早速変化が見られたと。」 「おう。」 「立憲自由クラブの「安全保障予算を実効性のあるものに」ってスレッドを読んでこう言ったそうです。」 「立憲自由クラブ?…ちょっと待て。」 携帯を取り出した彼はそこに該当のウエブサイトを表示させた。 「うわ…字だらけや…。ちょ俺いま無理やわこれ読むの。」 「記事自体は別に何でもありません。ざっくりいうと今回のテロ事件にツヴァイスタンが関わっていて、防げなかったマルトクは無能。それに反して自衛隊は素晴らしい的な。」 「はぁ…右からも叩かれとるんか…。俺ら。」 「まぁ…。」 「で、椎名はなんて。」 「ふざけんな。いい加減ガキみたいなことやめろ。クソ国家。です。」 「…あ?文脈がよくわからん。」 「今回の犯行にツヴァイスタンが何らかの形で関わっているのではとの論調に、彼のあの国に対する積年の恨みを吐露したと言ったところでしょうか。」 「あぁそういうことか…。」 「あれ、班長あんまりですか?」 「え?」 「え、だって珍しいじゃないですか椎名がツヴァイスタンに反応するの。しかもこんなに露骨に。」 「そうやな。」 「ヤツなりになにかの感情が揺さぶられている証拠です。」 「紀伊。」 「…

続きを読む