第37話
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「昨日午後9時頃、新宿駅近くの混み合う路上で男が突然刃物をもって、無差別に通りの人たちに切りかかりました。警察の発表によるとけが人は6名。内3名が重症ですが、幸い3名とも命に別状はない状態のようです。当時の事件現場は通行人でごった返す場所でしたが、偶然別件で警戒にあたっていた警察官がその場に居合わせたため、速やかに容疑者の逮捕となりました。現在容疑者の男は警察で取調べ中ですが、男は逮捕直後から日本をぶっ壊せなどと意味不明なことを呟いており、警察では精神鑑定を含む慎重な捜査を行っていく予定です。」
「ぶっ壊せ…ぶっ殺せ…。」
不意に椎名の口から言葉が出てしまった。
「この車の中だけさ。気が許せる場所は…。」
スマートフォンの上部に目をやると時刻は7時10分だった。
「はぁ…あと40分で会社。ほんとこの8時間って拘束はなんとかなんねぇかな。1日24時間。内3分の1は労働。6時間は睡眠。残り10時間だ。通勤で往復2時間。すると8時間。8時間しか自由になる時間ねぇのかよ…。あいかわらず(゚⊿゚)ツマンネシステムさ。」
車は信号で止まった。
「どいつもこいつも死んだ魚みたいな目ぇして運転してやがる。憂鬱なんだろうな。いや、退屈なだけかもしれない。日常が退屈すぎて、憂鬱な気持ちになってんのかも。」
ポツポツと雨がフロントガラスに落ちてきた。
「憂鬱な月曜、それに拍車をかける雨。ご心配なく。その気分吹っ飛ばせてやるよ。きっと生きている…