第41話

3-41.mp3 「おい…。おい…。」 薄っすらと開いた目にぼんやりと人影が映る。 「大丈夫か。いい加減起きてくれ。」 ー起きる?何言ってんだ。俺は起きてるよ。 ゆっさゆっさと自分の体が揺さぶられているのに気がついた。 「おい。しっかりしてくれ。なぁ。」 ーあーめんどくさいなぁ…こいつ…そっとしてくれよ…。」 「おい!」 ビンタの音 頬がじんわりと熱を持っている。 そこに手のひらをあてがった彼はゆっくりと目を開いた。 男がこちらを覗き込んでいた。 「あ…。」 「あ…じゃないだろ…。大丈夫かよお前…。」 「あれ…。俺…こんなところで何やってんだ…。」 「え?」 「俺、なに…まさか寝てた?」 「あぁ…死んだように寝てたよ。」 「いつの間に…。」 あまりにも呆然とした表情の彼の様子が気になった。 「おい、お前俺のことはわかるか?」 「あ、あぁ…。」 「俺の名前は。」 「…ビショップ。」 「はぁ…よかった…。」 空閑はひとまず安堵の表情を見せた。 「随分疲れてるんだな。何やっても何の反応もしなかったんだぜ。本当に死んだのかと思った。」 「あ…すまない…。俺、全然記憶ないんだ。車に乗って、金沢駅の門を見上げて、目的地の場所をカーナビで見て…。」 「金沢の観光プロモーションビデオをカーナビに表示して、お前に見てもらってたらいきなり寝落ち。」 「え?」 「えって…本当に記憶ないんだな。」 …

続きを読む

第40話

3-40.mp3 「着いたぞ。」 車を止めてエンジンを切り、助手席の方を見るもそこに座る朝戸は深い眠りに着いたままだった。 「ふぅ…。」 ため息を付いた空閑はシートベルトを外し、車の外に出た。 雨が降っていた。 ここはひがし茶屋街や主計町といった金沢の町家建築が立ち並ぶ観光エリア東山。 大通りから一本筋を入ったところに、昭和の薫りが立ち上る場所がある。 朝戸が泊まる宿はここにあった。 携帯操作音 「すまない。仕事中に。」 「な んだ 。」 「ちょっとだけ聞きたいんだけどさ。すっげー寝てるんだけど…。これ大丈夫?」 「…仕方 ないよ。」 「問題ないんだ。」 「う ん。」 「わかった。ありがとう。」 「あ。」 「うん?」 「早め に 見せて…。」 「あぁそうだね。」 「悪い影響が。」 「分かってる。すぐに連れて行くよ。」 携帯切る 死んだように眠る朝戸を空閑は見つめた。 「死んだはずの妹がそこで生活を営んでいる。そんなもん見たらむしろこいつの精神状態がおかしくなりやしないか…。」 「クイーンのやつもナイトのことになると正常な判断が鈍る傾向があるみたいだ。」 「あの人のように…。」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ドアを開く音 足音コツコツ 椅子に座る 「すまんな。迷惑をかけている。」 「そうですね大迷惑です。」 百目鬼の目の前にガラス越しで座る松永の頬はこけ、目の下…

続きを読む

第39話

3-39.mp3 「は?消えていっとる?」 「はい…。」 「どういうことや。」 IT捜査官はパソコンの画面を片倉に見せた。 「これが我々が昨日見ていたSNS上のコメントです。『ウ・ダバ 池袋 犯行声明』でフィルタリングしています。ご覧の通り、例のツヴァイスタン語の映像はウ・ダバ犯行声明だってことで次から次へと拡散されています。ちなみに関連するコメント数は10万です。」 「うん。」 「…でこちらが現在のもの。先ほどと同じようにフィルタリングすると…。」 「…なんじゃこりゃ。該当する件数がぐんと減っとるがいや。」 「はい。わずか200件。つまりこの数時間内で出本のコメントはおろか、それを拡散した二次三次のコメントの存在も消え去っているってわけです。」 「こんなことって…。」 「あります。」 「え?」 「ロシアの方で当初普及した『消えるSNS』ってやつです。」 「消えるSNS?」 「はい。」 「消えるSNSってなにが良いんや。」 「SNSサーバー上の痕跡を消すので、秘匿性の高い情報をやり取りするには便利です。たとえばビジネスのやり取りをするとか、いかがわしいことをやりとりするとか…。とにかくSNS上の情報が一定の時間経過後忽然と姿を消すんですから、けっこう過激な内容があります。」 「ふうん。」 「今回のこの動画が拡散したSNSの問題は、その消える機能が実装されていないにもかかわらず、何らかの原因でコメントが消え去ったって点です。」 「そうやな。」 「…

続きを読む

第38話

3-38.mp3 相馬は石川大学病院の外来窓口にあるソファに座って本を開いていた。 「東一病院時代の光定の机の中には人間の目の写真がぎっしり。鍋島の特殊能力発動条件はやつの眼力。曽我の裏方として鍋島の特殊能力の分析をしとった光定はどうやらそれには気がついとったみたいやな。」 「しかもその写真には気分が高揚するなどの妙な力があった。光定は鍋島能力の再現を図っているのかも。」 「もしもその鍋島能力の再現がすでにできとって、その精度を上げる段階に入っとるとしたら、あいつが山県と直接接触するのはなにかの意味があることなんかもしれん。」 「とは言え、そんなことを理由にいきなり光定周辺にガサ入れってのも無理ですし。」 「そうそう。特高からケントクに相馬捜査官レンタルの書類が正式に届いたみたいやし、おまえ光定調べてくれんけ。」 「え?」 「あれ?聞いてない?」 「はい。ケントクの課長には班長から話し通しておくってだけで…。」 「あらそう。ワシはケントクの課長から直々に言われたけどな。」 「なにを?」 「相馬捜査官と極秘裏に捜査を進めよってな。」 「118番の番号札をお持ちの方、診察室へお入りください。」 呼び出された患者がゆっくりと立ち上がった。 それ誘導するように患者に付き従う一人の看護師がいる。 「とにかく光定に近い奴をこっち側に引っ張り込む。それが一番手っ取り早い。」 「って言っても、自分には光定周辺の情報がありません。」 「それはこっちで準備した。…

続きを読む