第62話
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警視庁公安特課機動捜査班。
そのセンターテーブルに過去の捜査資料を広げて何かを調べる男がいた。
「紀伊主任。」
「うん?」
「時間ですよ。」
「あ?」
紀伊は壁にかけられている時計に目をやった。時刻は18時15分だった。
「どうした?」
「何いってんですか。主任言ったでしょ。15分後声かけてくれって。」
部下を見つめた紀伊は固まった。
「…え?」
「遅っ…。」
「そんなこと言った?」
「あの…ちょっとまって下さいよ。大丈夫ですか主任?百目鬼理事官見送って15分後に俺に声かけてくれって言ったじゃないですか。」
今度は自分の腕時計に目を落とす。
5秒ほどして紀伊は突然慌てた様子でテーブルの上を片付けだした。
「あぁいいですよ。自分やっておきますから。」
自分の予定を完全に忘れ去るほど仕事に没頭しているのか、それとも疲れがピークに来ているのか。
上司である紀伊の様子を見かねた彼は代わりに片付けだした。
「悪ぃ。」
「どこ行くんですか主任。」
「ちょっと待ち合わせしてたの思い出した。」
「女ですか。」
「いや。」
「なんだ…仕事ですか…。」
「うん。」
「はぁ…相勤はどうです?」
「いやいい。俺だけでいい。」
「留守どうします。」
部下は空席である班長席を指差しながら紀伊に言った。
紀伊は特高部屋を見回した。ここには自分と目の前の部下、そして他に5名程度の人員が詰めている。
「…