第76話

3-76.mp3 夜の海は恐ろしく闇だ。 そこに立ち、しばらく経って目が慣れてきてもせいぜいが砂浜と海の境が分かる程度。 空と海の境目は闇によって判別できにくい。雨が降る状況ならばなおさらのこと。 漆黒の闇が視界を覆い、激しい雨音の中わずかに聞こえる一定のリズム、波の音。これを聞いているうちに知らず知らず目の前の闇の中に引きずり込まれるような錯覚すら覚えてしまう。 闇は人を寄せ付けない。 視覚という人間にとって最も重要な感覚をそれが削ぎ落とすからだろうか。読んで字の如し、闇によって感覚の手がかりは音に制限される。 人の存在を拒絶する闇の中から、あろうことか人形(ひとがた)のものが這い上がってきた。 ひとつではない。続いてふたつ、みっつ、よっつ。 真っ黒な人形(ひとがた)が海から這い上がり砂浜に立つ。 真っ先にそこに立った人形がシュノーケルを取り外したと判別できた瞬間、それらはウェットスーツを纏った屈強な体つきの男であると確信した。 男は合計5名。 皆両膝に手をついて前かがみになり、息が上がっているようだった。 相当疲労しているように見受けられる。 1分ほど彼らは同じ体勢だった。 落ち着いたのか一人の男が右手を自分の肩の辺りで握った。 そしてそれを開く。 すると彼に付いてきた他の4名は散り散りに別の闇に消えていった。 拳を開いた男もまたそこから別の闇の中に足を踏み出そうをしたときのことである。 彼は動きを止めた。 そしてゆっくりとこちら…

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