第79話

3-79.mp3 スマートフォンを手にして公園のベンチに腰を掛けている男がいる。 ノーネクタイのスーツ姿。傍らにはブリーフケースもある。装いは明らかに会社員。 鞄と一緒においてあったコンビニ袋に手を突っ込んでパンを取り出した彼は、それを齧った。 いまは平日の出勤時間。 この公園を一歩出ると、すぐそこにあるのが霞が関。そこには彼と同じような姿形の人間が重苦しい顔をして忙しなく出勤中。 いまのここと向こうでは明らかに時間の流れ方が違う。そして聞こえる物音も。 彼はときおり聞こえる小鳥のさえずりを耳にし、全身で朝の清らかな空気を感じていた。 携帯電話が震えた。 パンを頬張った彼の口の動きは止まった。 画面を指でスクロールしながら彼の口から声が漏れた。 「これ…マジかいや…。」 パンを飲み込んで彼はしばらく呆然とした。そして天を仰いだ。 「どうする…マジでやばいぞ…。」 ふと向こう側に男の姿が見えた。 キョロキョロとあたりを見回しながら、何かを確かめるような足取りで進む彼の手には雨傘がある。 本日の東京の天気は晴れ。降水確率は10%。大気中の湿気も少なく、その空気は澄んでいる。 男の持ち物はこの場に似つかわしくない。 「丁度いい。ぶつけるか。」 ベンチにかけていた彼は咳払いをした。 「ごほん。」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「あ。」 ベンチに掛け、何かを齧っている男の姿が三波の目に入…

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