第84話
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No.2の扉が開かれ中から男二人が出てきた。
「おはようございます!椎名さん。」
「えっ。」
不意に大きな声をかけられた椎名はあたりをキョロキョロと見回した。
廊下の向こう側にリックを担いだ見覚えのある女性が立ってこちらに手を振っていた。
「あ、片倉さん。」
「お、京子のやつ来てたんだ。」
彼女はこちらに駆け寄ってきた。
「どうしたんですか椎名さん。こんな朝早くに弊社にお越しだなんて聞いてませんよ。」
「あぁ…実はちょっと本業の方で安井さんに用がありまして。」
「本業?」
「ええ。印刷の方で。」
京子は安井を見る。
「記念誌。」
「記念誌?」
「ああ。創業5周年の記念誌製作。」
「え?そんな話聞いてません。」
「俺は聞いてるの。」
「京子。心配ない俺も聞いてる。」
黒田がどこからともなく3人の中に入ってきた。
「安井さん社長に一任されてるんだ。」
「え…まさか、それで密かにいっぱいいっぱいになって、私の仕事断って椎名さんに紹介したとか…。」
安井は京子と目を合わせない。
「図星?」
「…否定できない。」
「まじですか。」
目をそらしたまま安井はうなずいた。
「キャパせまっ。」
「なにぃっ!?」
「10年20年の話なら資料集めたり取材したりで結構大変やと思うけど、5年でしょ。そんなんチャッチャッってできません?」
「あほ。俺は制作畑なんだよ。記者畑の人間と一緒にしな…