第89話【後編】

3-89-2.mp3 電子鍵が開かれる音が聞こえたため、窓から外を見つめていた小早川はそちらの方を見た。 そこには警備員姿の男が立っていた。 一介の警備員がなんの断りもなく研究室の鍵を勝手に開けて入ってくる事自体がありえない。 あまりもの想定外の状況を目の当たりにして、小早川は反応に困った。 「なんだ…君…。」 小早川がこういった瞬間、突如として警備員は小早川の背後に回り込んだ。そしてハンカチのような布で彼の口元を抑える。 まもなく小早川は気を失った。 「小早川先生!守衛室です!応答願います!小早川先生大丈夫ですか!」 どうやらとっさに小早川は非常通報装置のボタンを押していたようだ。 「チッ。」 警備員姿の男は窓から外の様子を見る。 今の所まだ研究棟全体が騒ぎになっていないようだ。 彼は窓を開けた。 そして横たわる小早川の靴を脱がせる。 「っしょっと…。ってか重めぇよ。こいつ。」 男は小早川を担ぐとなんのためらいもなく、それを5階の窓から真っ逆さまに突き落とした。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「そうか。早いな。」Понятно. Ты рано. タバコの火をつける音 吸い込みそして吐き出す 「すでに一回やらかしてるからな。」Он уже сделал это один раз. 「曽我コロシの件か。」Дело убийцы Со…

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第89話【前編】

3-89-1.mp3 「わかった。とりあえずあんたはすぐに石川に戻ってくれ。」 「すぐって?」 「今すぐ。この手のことはぼやぼやしとると、気がついたらもう逃げられん状況に追い込まれとるなんてよくある。小早川はうまく騙せたとしても、その先のやつがあんたを放っておくことは考えにくい。」 「その先…。」 「ああ。」 「…片倉さんは、その先の奴ってなにか情報持ってるんですか?」 片倉はしばし黙った。 「心当たりありそうですね。」 「…あくまでも心当たりやけどな。」 「それを聞くわけにはいきませんか。」 「…いまの段階では。」 三波はポケットの中からイヤホンを取り出してそれを装着した。 「じゃあ、また連絡するわ。」 「待ってください。」 「あん?」 「いまイヤホンつけました。いま自分、駅まで歩いています。駅までの道中もうちょっとだけ付き合ってください。」 「…。」 「たぶん5分程度です。」 「(ため息)…イヤホンをつけるのは正解や。黒田から教えてもらったんか?」 「ええ。この手の話、少しでも通話音量大きかったら外に会話の内容ダダ漏れですから。」 「わかった…。そのまま駅に向かってくれ。」 「はい。」 「でなんや。」 「自由を得たいという願望もあるみたいなんです。」 「自由を得る?なんのこと?」 「小早川です。」 「どういうことや。」 「なんでも、学内の異常なまでの忖度に疲れ切っているらしいです。この忖度に耐えきれずに彼は教授の道を捨…

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第88話【後編】

3-88-2.mp3 携帯に通知が届いた。 即座に岡田はそれを開く。 「確かに残念な具合にハゲ散らかしてるな…。」 そう言うと彼はその画像を側にいた捜査員に転送した。 「いま画像送った。そいつをすぐに照会してくれ。」 「はい。」 マウスの音 「うん?」 「どした?」 「課長…この人…。」 「なんや。」 「自分知っとります。」 「は?」 「そっくりです…昔、自分、能登署におったときの相勤に。」 「サツカン?」 「いえ。今はヤメ警のはずです。」 「ヤメ警…。」 「念の為特高にでも照会とってみましょうか。あそこならすぐ対応できるはずです。」 捜査員は連絡を取ろうと電話の受話器をとった。 「待て。」 「えっ。」 「ワシをすっ飛ばして頭越しに直でやり取りする警察の誰かさんもさることながら、身近で世話してきたワシに悟られんように特高とコンタクトとっとった椎名にもがっくり来ました。」59 ー特高の片倉班長とは古田さんを介してしか俺らは基本連絡を取り合っていない。けど片倉班長とは意識の共有化ができとる。そん中で俺の部下であるマサさんをすっとばして椎名と直でコンタクトをとっとる特高の誰かが居る。その可能性が出てきた今、特高の中で妙な動きをしとる奴がおる…。 ーつまり特高にもモグラがおる。その中でいまここでこのハゲを特高に照会取るってのはどういう意味を持つんや…。 「課長?」 ー俺らがいま特高に照会しようとしとるこの行…

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第88話【前編】

3-88-1.mp3 「そうなんです…。目を離した一瞬をつかれました。」 「走る車に自分から突っ込んでいった…。」 「はい。」 「…古田さん。」 「はい。」 「天宮にしろ千種にしろ、古田さんが話を聞きに行った相手が、即効で死んどる。」 「…はい。」 「これなにかの偶然?」 「そうとしか…。」 「天宮は他殺。千種は自殺やしな。」 「はい。」 さすがの古田の声にも力がなかった。 それはそうだ。こうも立て続けについ先程までやり取りしていた人間が直後に死亡したのだ。 ショックを受けて当然だ。 「しかし…こうも調べの対象が即死亡ってのは具合が悪い…。」 「はい。」 「他部署が捜査を仕切るから、ウチら弾かれる。」 「はい。」 「もうここまできたら、そのあたりを見越しての相手側の処理かもしれないって感じを受けるね。」 「はい。」 「古田さん。今回の千種の件も天宮の件もあんたが悪いわけじゃない。気にするな。」 「はい…。」 先程から古田に発言らしい発言がない。 岡田の言葉に基本的に「はい」と応えるばかりだ。 岡田は何かを察したようだ。 「どうした。」 古田視点 「あやしい男がおります。」 「なに?」 「電話しながらこっちの方をチラチラ見とる。」 「野次馬じゃなくて?」 「ワシの勘が何か言っとります。」 「念の為抑えておいてくれないか。」 「了解。」 電話を切った古田はすぐさま電話をかけ直した。 「もしもし?…

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