第18話 後半



テレビをつけると東京で起こったテロ事件に関する報道番組が流れている。
リモコンで他のチャンネルを選択するもどこの局も特別編成の番組を放送していた。
いま世の中はこの話題で持ちきりだ。

椎名はテレビをつけたままキッチン壁に背を向けて椅子に腰を掛け、携帯を触りだした。

ー誰か入った…。

彼の顔は携帯の液晶画面に向いているが、視線は部屋の真ん中の床にあった。

ー部屋の真ん中に落とした3本の髪の毛。うち1本がどこかに消えている…。

椎名は背伸びをした。

「ん〜…。」

再び彼はテレビの前に立ち画面を見るふりをして、視線だけを部屋全体に移動させた。

ー何をした…。カメラの位置を変えたか…。それとも盗聴マイクでもいじったか…。

目だけで部屋を調べたところ不審な点はない。

「えー新しい情報が入りました。警察によりますと今回テロに使用されたのはノビチョクといわれる神経剤のようです。繰り返します。今回東倉病院において発生したテロ事件で使用されたのはノビチョクであるとのことです。ノビチョクは旧ソ連が開発したとされる神経剤の一種で、その毒性は…VXガスの5倍から8倍はある…とのことです。あの…垂石(たるいし)さん…ノビチョクって…。」

報道番組の司会者がコメンテーターに振る。

「…ええ。英国でその神経剤が使用された暗殺事件があったのは記憶にあたらしいところです…。」
「あのときは確か事件の背景にツヴァイスタンがとか…言ってませんでしたっけ。」
「はい。」
「ということはまさか…。」
「決めつけるのは早すぎます。我が国とツヴァイスタンは一昔前と違って最近は友好ムードです。それを台無しにするようなことをして、誰が得をするんですか。まだ捜査中のことですから、このような公共の電波で憶測でものごとを語るのは良くないと思います。」

ーこのタイミングでここに潜入するってことは、やっぱり俺自身が疑われてるってことだな。
ー彼奴等に気づいていないふりで通すか、それとも気づいているってことで彼奴等を牽制したほうがいいか…。どっちがいいんだ…。
ー様子を見よう。

欠伸をした椎名はおもむろに寝間着に着替えだす。
歯を磨き、部屋の電気を消して帰宅早々ベッドの中に潜り込んだ。

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個室でひとりパソコンのモニターを見つめる男がいた。

「えらい寝るの早いな、今日は。」

不審なものを見るような表情で富樫はつぶやいた。

「ほやけど今日からは見せてもらいますよ。」

パソコンで何かの操作をすると、真っ暗になっていた画面にモノクロで映像が映し出された。

「最近、なんや布団の中でこそこそやっとるけどねぇ…。」

暗闇の中にベッドに横たわる人物が映されている。
彼はそのまま微動だにしない。

「携帯さわらんと本気で寝るんか…。」

10分経つも横になる人間に動きはない。

「寝息…。」

富樫はため息を付いた。

「やっぱりシロなんか…。ほやけどテレビん中でツヴァイスタンっちゅう単語出た時、不自然なくらい無関心な感じやったな…。」

富樫の携帯が震えた。

「はい。あ、お疲れ様です。ええ変わりはありません。はい。…ひょっとすると本当にシロなんかもしれません。ええ。継続監視します。」
「…あ、そちらはどうですか。…そうですね。お察しします。はい。確かに。もちろんこんなもんでがっくり来とったら、それこそ相手方の思う壺です。ええがんばります。そちらもどうか踏ん張ってください。」

電話を切った富樫は天を仰いだ。

「なんでこのタイミングで電話かかってきたんや…。」

彼はそのまましばらく動かなかった。


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