第25話



「班長。いまどちらですか。」
「ちょっと頭ん中整理すっために外に居る。」
「お戻りは。」
「やわら戻る。何かあったか。」
「石川から報告です。」
「何や。」
「椎名のところの監視カメラと盗聴マイクをアップデートして早速変化が見られたと。」
「おう。」
「立憲自由クラブの「安全保障予算を実効性のあるものに」ってスレッドを読んでこう言ったそうです。」
「立憲自由クラブ?…ちょっと待て。」

携帯を取り出した彼はそこに該当のウエブサイトを表示させた。

「うわ…字だらけや…。ちょ俺いま無理やわこれ読むの。」
「記事自体は別に何でもありません。ざっくりいうと今回のテロ事件にツヴァイスタンが関わっていて、防げなかったマルトクは無能。それに反して自衛隊は素晴らしい的な。」
「はぁ…右からも叩かれとるんか…。俺ら。」
「まぁ…。」
「で、椎名はなんて。」
「ふざけんな。いい加減ガキみたいなことやめろ。クソ国家。です。」
「…あ?文脈がよくわからん。」
「今回の犯行にツヴァイスタンが何らかの形で関わっているのではとの論調に、彼のあの国に対する積年の恨みを吐露したと言ったところでしょうか。」
「あぁそういうことか…。」
「あれ、班長あんまりですか?」
「え?」
「え、だって珍しいじゃないですか椎名がツヴァイスタンに反応するの。しかもこんなに露骨に。」
「そうやな。」
「ヤツなりになにかの感情が揺さぶられている証拠です。」
「紀伊。」
「はい。」
「そっとしといてやれ。」
「もう忘れたいんやって。あいつは。ほやから下間関係の公判傍聴も断り続けてきたんや。確かに奴がツヴァイスタンの工作員って線は捨てきれん。ほやけど問題のないやつと接触する分には問題なんか起きようもないんやからそっとしといてやれ。」
「はい…。」
「こっちはちゃんと見張っとるんや。妙なやつと接触せん限りは椎名はツヴァイスタンに拉致された悲劇の被害者や。」
「確かに。」
「あと1時間程度で戻る。石川との連携もこのまま継続してくれ。」
「はい。」

無線を切った片倉は立ち止まった。
見上げると地上15階建ての病院が眼前にそびえ立っていた。

「ったく…。しっかりしてくれま…。捜一さんよ。」

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「鍋島の特殊能力を使われた人間の殆どが死亡という結末に至っとるのは相馬、おまえ知っとるな。」
「はい。彼らは鍋島の手で殺害もしくは、朝倉による工作によって殺害されたものと理解しています。」
「なんでそんなことを鍋島や朝倉がする必要があったかお前は考えたことあるか?」
「え?」
「特殊能力を使用された人間をこの世から消す。なんでそんなことをあいつらはしたのか。」
「…特殊能力の存在自体を知られたくなかった…ですか。」
「ほうや。でも鍋島は死んで朝倉は逮捕。下間とからもパクられてなんやらそのオカルトチックなもんの存在を消すような連中はみんな檻の中にはいった。ほやけど矢先…。」
「矢先?」
「あんときノトイチで爆発未遂事件あったやろ。」
「はい。」
「そんときに守衛所であいつとやり取りしとった男が死んだんや。自分で喉を掻っ切ってな。」
「え…。」
「鍋島という輩を原発に入り込ませてしまった責任を感じての自殺か、なんて当初は思われとったんやけど周辺を調べても、そいつが会社側から警備の責任を問われたような形跡がない。そりゃそうや。鍋島のこれまでの数々の犯罪歴を見りゃ、プロでもあいつの犯行を防ぐのは難しいと判断するやろ。会社側は守衛を責めるよりもむしろその精神的フォローをするための専門家によるカウンセリングを行っとったほどや。ほやけど死んでしまった。」

古田はタバコを咥えて火をつける。

「つまり…。」

タバコの煙を吐き出して古田はゆっくりと口を開く。

「朝倉ら以外にもまだまだツヴァイスタンのエージェントらしき人間が潜伏し、工作活動を実行しとる。そう思うのが自然。」
「そのエージェントが鍋島能力を行使された人間を処分した。」
「そ。」
「そこまでして消し去りたいのが、その鍋島の特殊能力の存在なんですか。」
「そうねんろうな。んで、ワシはその鍋島能力を行使されたと思われる数少ない生存者の管理をしとるってわけ。」

古田は山県久美子ノートを指さした。

「厳密に言うと生存者は久美子だけじゃない。佐竹と赤松。こいつらも生存者や。」
「佐竹さんと赤松さんもですか。」
「ああ。佐竹は高校の剣道部時代に、赤松も佐竹と同時期、んで6年前の事件当時に術にかかっとる。」
「そうやったんですか…。」
「あいつら二人はワシ以外の別のモンが監視しとる。今んところ特に変わったことはない。」
「それらしい奴が付き狙うような感じもないんですか。」
「ああ。」
「なんで。」
「わからん。」

タバコの火を消して古田はノートをパラパラとめくった。

「眼力で瞬時に人を意のままに操ることができるなんて普通に考えりゃありえん話。オカルトの世界や。そんなもん本気で分析するなんてここの政府は絶対せん。ほやけど現にその術を受けたっちゅう佐竹と赤松は、鍋島にそういう力があるのは間違いないって言い張るし、現に赤松においては6年前の事件でその術をうけることで、佐竹の行動を逐一鍋島に報告する状態になっとったんやから。…放っておけんやろ。」
「…え、ってなるとまさか古田さん。あなたはこの山県久美子の管理も、その…趣味で…。」

古田は首を振る。

「山県久美子だけを追っかけるならワシひとりで出来んこともない。けどいまワシ言ったやろ。佐竹と赤松も別のモンが付いとるって。」
「じゃあ…。」
「一応組織としてワシらは動いとるってわけ。」
「公安特課として?」
「そういうこと。」

古田はノートを相馬に手渡した。
相馬はそれに目を落とす。

「あの事件から6年、ワシは山県久美子をストーカーのように付けてきた。でも24時間365日、ワシがあいつを直接監視するのは無理。そこで久美子が定期的に接触するであろう要所要所の人間をエスにして、ワシの目を離れたときのあいつの様子も仕入れてきた。」
「本当ですか…。」
「事件後も久美子は今までと変わらずショップの店長として働き、基本職場と自宅の往復の日々。時々オーナーである森が経営する喫茶店に顔を出す程度。基本どこかに遠出するとかはない。ただあの事件で少し精神的に不安定になったんやろうか、石大病院の心療内科に通うようになった。ここは毎月定期的に通っとる。」
「…精神的に不安定ですか。」
「うん、どうした。」
「いや、京子がこの山県久美子が店長をする店をよく利用しとって…。」
「ほう…。」
「なんかそんなことがあったって聞いたことがあります。」
「例えばどんな?」
「そうですね…自分はそのショップとかの事情はよくわからんのですけど、あの店はよく試着を勧めてくるらしいんです。でもそういうことは一切なく、馴染みの客もほったらかし、話しかけることも殆ど無いなんてことが続いた時があったらしいです。」
「ふうん。」
「かと思えば、日を改めて行ってみると、その久美子がやたら饒舌やったり、ゴリゴリに営業かけてきたりといままでじゃなかった対応があったりしたようですよ。んでなんかイライラしとるようなときもあったらしいです。」
「うん。聞いたことあるそれ。」
「やっぱりそうなんですか。」
「うん。ほやから石大病院にかかった。けどどうもパッとせんかったみたいなんやわ。」
「パッとせん?」
「おう。半年くらい通っても症状が改善せん。んで医者がチェンジした。」
「チェンジしてきたのが曽我遼平。」
「ああ。結果的に久美子の症状は落ち着いた。」

相馬はノートに書かれた曽我の情報を読む。

「曽我遼平。石川大学医学部卒業、石川大学医学部附属病院勤務。心療内科専門。数々の研究論文を発表。1年前には世界的科学雑誌メディツィナにも掲載された、将来を嘱望される人材。すごい人物ですね。」
「ああ。ひょっとすると鍋島能力のメカニズムの解明ヒントを曽我は掴んだのかもしれん。そう思ってワシはヤツとの接触を試みたわけや。」
「直接ですか。」
「ほうや。今から五年前のGWか。」

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