第38話



相馬は石川大学病院の外来窓口にあるソファに座って本を開いていた。

「東一病院時代の光定の机の中には人間の目の写真がぎっしり。鍋島の特殊能力発動条件はやつの眼力。曽我の裏方として鍋島の特殊能力の分析をしとった光定はどうやらそれには気がついとったみたいやな。」
「しかもその写真には気分が高揚するなどの妙な力があった。光定は鍋島能力の再現を図っているのかも。」
「もしもその鍋島能力の再現がすでにできとって、その精度を上げる段階に入っとるとしたら、あいつが山県と直接接触するのはなにかの意味があることなんかもしれん。」
「とは言え、そんなことを理由にいきなり光定周辺にガサ入れってのも無理ですし。」
「そうそう。特高からケントクに相馬捜査官レンタルの書類が正式に届いたみたいやし、おまえ光定調べてくれんけ。」
「え?」
「あれ?聞いてない?」
「はい。ケントクの課長には班長から話し通しておくってだけで…。」
「あらそう。ワシはケントクの課長から直々に言われたけどな。」
「なにを?」
「相馬捜査官と極秘裏に捜査を進めよってな。」

「118番の番号札をお持ちの方、診察室へお入りください。」

呼び出された患者がゆっくりと立ち上がった。
それ誘導するように患者に付き従う一人の看護師がいる。

「とにかく光定に近い奴をこっち側に引っ張り込む。それが一番手っ取り早い。」
「って言っても、自分には光定周辺の情報がありません。」
「それはこっちで準備した。」

古田はA4ペラを相馬に手渡す。

「木下すず。22歳。石川大学病院心療内科外来の看護師。こいつが一日の内、光定と一番接触の時間が長い。」
「看護師ですか。」
「写真を見ての通り、切れ長の目、ぱっつん前髪。アジアンビューティーって感じやな。」
「そうですね。」
「ぱっと見キツそうな顔つきとも言う。」
「はい。」
「キツそうなためとっつきにくい。けど所謂あれや。」
「あれ?」
「ツンデレ。」
「ツンデレ?」
「おう。そのため交友関係は非常に狭い。」
「…この女をエスにしろと。」
「そう。」
「趣味は。」
「アニメ。」
「アニメか…。」
「流石にアニメ趣味のヤングなレディとはワシは話は合わせられん。」
「確かにそれは無理がありますね。」
「頼めるか。この木下を介して光定のネタ引っ張ってくるの。」

患者を診察室まで送り届ける看護師の視線を相馬は感じ取った。
本の影から見える彼女は、相馬が手にするそれに関心を示しているようだった。
本のタイトルは「ミリアニ好きが恋しちゃだめですか」。アニメ化が決定され、最近その界隈で話題の原作本である。
相馬はとっさに本を閉じた。
そしてそれを看護師に振ってみせた。
一瞬、その行動に意味不明な表情をしていた彼女だったが、流石に心療内科の外来だ。普通の人ならぎょっとする行動にも免疫があるのだろう。ニッコリと笑みを浮かべて彼女はこちらに近づいてきた。

「どうしたんですか。」
「この本知っとるんかなぁって思って。」
「…知ってますよ。名著です。」
「本当ですか。うれしいですね。まさかミリ恋の読者とこんなとこで会えるなんて。」
「アニメ化されるんですよね。」
「え?」
「え?違いましたっけ?」
「マジデッ!?」

携帯を取り出した相馬は「ミリ恋 アニメ化」で検索をする。
すると該当のニュースが数件ヒットした。

「本当や…。」
「あ…よかった。」
「すごいですね看護師さん。情報早いですね。」
「え…あ…。」
「('・c_・` )ソッカー アニメかぁ。どんな感じの作画になるんかなぁ。」
「気になりますねー。特に主人公の恋敵の長門を影で支える朧あたりなんかが。」
「うわー渋いとこきますね。ってかやっぱり女の人は朧が一番人気なんですか。」
「うーん。ワタシは長門推しですけど、他の人のことはよくわかりません。けどやっぱり一般ウケするのは朝日とか比叡あたりなんじゃないですか。」
「イケメンですもんね。その二人。」
「どんなビジュアルになるのか楽しみですね。」

ぱっと見とっつきにくい外見の木下すず。敷居が高く見える彼女は、間口が狭いだけだった。
彼女と相馬は僅かな時間だが、その場で「ミリ恋」のアニメ化について話し込んでしまった。


「122番の番号札をお持ちの方、診察室へお入りください。」

「あ、いけないいけない。仕事のこと忘れてた。」
「すごいなぁ木下さん。なんでも知っとるんや。」
「ただのオタクです。」

相馬はさりげなく一枚の紙切れを彼女に手渡した。

「せっかくのご縁です。よかったら今日の勤務の後にもうちょっと話しませんか。いつでも連絡ください。」

相馬の積極的な提案に戸惑いを隠せない様子だったが、素直にそれを受け取って彼女は診察室の方へ消えていった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「古田と相馬か。」
「様子見ましょう。」

富樫の回答に男は口をつぐんだ。

「岡田課長。どこにモグラがおるんかわからん状況です。」
「…確かに。こちらしか知り得ない椎名の行動監視の詳細を特高が把握をしていたからな。」
「はい。カメラ等の周辺機材をアップデートしたその直後から、ワシがあいつの部屋を監視するタイミングでいちいち連絡が入る。ワシらが椎名を監視するのと同様、特高がワシらを監視しとる風に。」
「見張り部屋の環境確認は間違いないんやな。」
「はい。ワシが詰める部屋には盗聴器やカメラ等の設備は一切ありません。」
「いったいどうやって特高はマサさんの様子を手にとるように把握しとるんか…。」
「とにかくそんな中に特高から応援派遣されてきたわけです。疑ってかかるに越したことはありません。」
「確かに。」
「捜査継続と同時並行で特高監視ができるのはワシらケントク本隊と距離を置く古田顧問捜査官しかいません。」
「ふぅ…。」
「因果な商売ですね。」
「まったくだ。」

電話の音

「はい。…またか。…わかったすぐに臨場させろ。」

受話器を下ろす

「今度は能登や。」
「不審船ですか。」

岡田はうなずく。

「なんかスパートかけとるみたいなペースや…。」
「表に出る不審船でこのペース。裏に隠れた動きを想像するとうすら寒くなります。」
「どこだ…彼奴等の狙いは…。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【公式サイト】
http://yamitofuna.org
【Twitter】
https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVM

ご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。
皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。

すべてのご意見に目を通させていただきます。

場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。

この記事へのコメント