第43話



自販機の音
缶を開けて飲料を飲む

「相馬…?」

三波は手にしていたスマートフォンをポケットにしまった。
そしてベンチに座って缶コーヒーを飲む男をサングラスの中から見つめた。

ー間違いない。京子のやつ浮足立ってると思ったらやっぱり相馬がここに帰ってきてたんだな。

相馬は本に目を落としている。

ーそれにしてもあいつところで何やってんだ…。見舞いは基本午後からだから、え…まさかなんか病気でも抱えてんのかあいつ。

本を読んでいる相馬がこちらに気づく様子はない。

ー片倉は相馬が今この病院にいるって知ってんのかな…。まぁあいつのことだから、そんな事チクっても自分らのことに第三者が首突っ込むなって言うだろうな。

飲料を飲み干した三波はそれをゴミ箱に捨てた。

「相馬周。」
「え?」

自分の名前を呼ぶ声が聞こえて相馬は顔を上げた。
サングラスの男がそれを外した。

「あっ三波さん。」
「おう、覚えてた?」
「あ…はい。」
「久しぶりだね。」
「本当ですね。」
「どしたのこんなところで。」
「三波さんこそどうしたんですか。」
「俺?俺はちょっと知った人がここに入院しててそのお見舞いで。」
「あぁそうなんですか。」
「お前こそどうしたんだよ。」
「自分は…。」

手にしていた本を閉じた相馬は神妙な面持ちになった。

「すまない。ひょっとしてデリケートな部分に入り込んでしまったかな。」
「…いえ。」

相馬は改まって三波の目を見た。

「三波さん。」
「なんだよ…。」
「ここで俺に会ったことは京子には内緒にしておいてください。」
「あ?」
「自分、ここの心療内科にかかってるんです。」
「え?」
「全身の倦怠感がひどんです。医者にはストレスによるもんだっていわれています。」
「聞いたことあるな…心身症ってやつか。」
「はい。」
「なんだ、仕事うまく行ってないのか。」
「まぁ…そんなところです。」
「京子から聞いてるよ。お前、東京の方でバイト暮らしらしいじゃないの。」
「ええ。」
「仕事だったらウチなんて猫の手も借りたいくらいの状態だから、いつでも来いよ。」
「でも…京子が居る職場は…。」
「あぁ…そういやあいつもそんなこと言ってたっけ。」

三波は相馬の隣に座り直した。

「京子は知らないんだ。お前の病気。」
「はい。」
「…言えねぇよな。」
「はい…。」
「大事な人ほど言えない。わかるよ。」
「…。」
「俺は心身症じゃなくって鬱だった。」
「そうだったんですか。」
「あぁ。」
「人間、休まなきゃいけない時期ってあるんだ。おまえ何か抱え込んでるんじゃないのか。ロシアから帰ってきて東京でバイト仕事なんて…。」
「…そうかもしれません。」
「俺で良ければ相談乗るよ。」

ポケットからメモ用紙を取り出した三波はそこに電話番号を書いた。

「俺からお前に連絡することはない。気が向いたら連絡くれ。」

そう言って彼はそれを渡して相馬の肩を軽く叩いた。

「心配すんな。俺は誰とも会っていない。」
「…ありがとうございます。」
「お大事に。」

三波はその場を後にした。

「ジャンプジャケットにジーパン、ジャケパンスタイルが定番の三波さんらしくない格好。しかも屋内でサングラス。パッと見で個人を特定されたくないってのあからさまに出てる。基本午前の面会はお断り。三波さん、誰のこと調べてるのかな。」

こう呟くと相馬はニットキャップをかぶった。

「このままずっとこの病院にいるわけにもいかないし、ちょっと探ってみようかな。」

そう言って彼もまたその場から立ち去った。

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