第46話



「え?古田さんが?」
「あぁ、天宮のヤサで聴取しとったところ、あまりにもしつこいとかでPSに苦情が入って、PMが乗り込んだらしい。」
「本当ですか…。」

岡田ため息をつく。

「しかし古田さん、天宮の聴取って…。ここで随分思い切った行動を取りましたね。」
「だな。それで収穫があればいいんやけど」
「まぁ…。」
「何事にも慎重を期するあの人らしくない。何か焦っとるようにも思えるな。」

「不要な予算をマルトクに付けとる。なんて大蔵省が評価したら、せっかく充実させた安全保障関連の予算も見直しが必要とか言って、あいつら至るところにメスを入れかねん。」
「もしもそうなると安全保障予算を引っ張ってきた族議員は、その顔を潰されることになり、ひいては関係業者、団体の期待を裏切ることとなって、票を失うなんて心配もせんといかんくなる。」
「政治家と大蔵省の睨みがきつくなった警察は、世論という勢力を味方につけるため、彼らが最も納得する対応をする。それがツヴァイスタンやウ・ダバをとにかく取り締まれというもの。ここに乗っかって政治家と大蔵省からのプレッシャーを切り抜けようと考えた。」
「なんねんてそれ…。そもそもマルトクはそういう他からの干渉をなくして治安維持活動に専念できるようにって目的で設立された部署やぞ。」
「でも金がなくなればウチらは干上がります。」
「目に見える成果…か。」
「はい。」
「…しかもはよせんといかん訳やな。」
「おそらく。」36

「おいマサさん。」
「あ、あぁ…。」
「どうした?ぼーっとして。」
「あ、いえ…。」
「でもあれだ。これで古田さんはあんまり派手な立ち振舞はできんくなる。」
「と言いますと?」
「所轄のお世話になっちまったんだ。古田さんの存在は内輪の人間にもあんまりオープンにしたくないげんに、今回の件でちょっと目立ってしまったやろ。」
「はい。」
「いい機会や。しばらく内勤してもらう。」
「内勤といいますと。」
「本部内にくくりつける。」
「…なるほど。ついでに古田さんが特高の目になっとるかどうかを探るんですね。」
「そういうこと。」

こう言うと岡田は腕を組んで目を瞑った。

「どうしました課長。」
「天宮ってことはあれか…。」
「おそらく光定公信関係ですね。」
「光定関係というと山県久美子。」
「山県久美子といえば鍋島。」
「例の特殊能力の件か。」
「はい。」
「それとツヴァイスタン。」
「はい。」
「下間事件の公判はGW明けの金曜だったよね。」
「はい。」
「古田さんはそこらあたりを目処に何か決め手になるもんをつかもうとしとるってことかな。」
「さぁ…あの人の頭の中はあの人しかわかりません。」
「そうやな。」
「で課長、古田さんを本部付にしてどうするんですか。」
「俺のそばで仕事してもらう。マサさんは今まで通りあの人と接してくれ。」
「了解。」
「あとひとつ。」
「なんでしょう。」
「椎名の監視体制を強化してほしい。」
「椎名のですか。」
「うん。現状は自宅での行動監視がメインや。こいつに尾行も追加してくれ。」
「椎名になにか。」
「いや、特高の動きを知りたい。」
「といいますと。」
「俺らケントクの椎名の監視状況を特高がつぶさに把握しとるのは間違いない。それは内部の誰かによって報告されとるってわけや。」
「はい。」
「それはそれとする。」
「はい。」
「ここで椎名に対する監視方法を俺とマサさん以外の誰も知らん形で追加して、もしもそれもすぐに特高に知られたとしたらどうよ。」
「古田説は排除。自分か課長のどちらかがモグラ…。」

岡田は静かにうなずいた。

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電話の音

「はい。」
「あぁ相馬。ワシちょっとしくじってしもうた。」
「はい?」
「天宮調べとったら、チクられて所轄に止められた。」
「え…。」
「んでワシ、しばらく身動きとれんくなった。」
「身動きがとれんって?」
「課長の監視下に置かれることになった。」
「ケントクの課長ですか。」
「おう。」
「んな…俺、ひとりでどうすれば…。」
「お前はそのまま継続で頼む。」
「ケイゾクって、ちょっと…俺ひとりで何ができるっていうんですか。」
「ワシとお前で極秘で捜査しれって言ったんは課長本人や。課長自身、相馬お前が一人ぼっちになるのは承知の上。」
「んー。」
「警視庁公安特課機動捜査班やろ。公安の中の公安。ひとりでもそれなりの働きができる連中の集まりやろいや。」
「まぁ。」
「ところで相馬。お前今どこや。」
「あぁ…石大は一旦離れました。今は坂を降りた笠舞あたりです。」
「ほうか。どうや例の件は」
「いやまだわかりません。でも感触は悪くないです。」
「そうか、いけそうか。」
「おそらく。また今日の夕方接触を試みます。」
「うん。」
「で、そっちはどうやったんですか天宮。」
「そうそう。それをお前と共有しとこうと思ってな。」
「あ、ちょっと待って。」

相馬は壁を背にした。そしてポケットからイヤホンを取り出してそれを装着した。

「何かしらんけど、あいつの家は凄まじいとっちらかりようでな、足の踏み場もない所謂ゴミ屋敷やったんや。」
「へぇ、地位も名声も金もある人間が…。」
「どうもあいつ奥方に逃げられたみたい。その理由はよう分からんけど、いまは自分ひとりしかこの家におらんらしい。どうやらもともとアイツは片付けができん性分らしくって、いまのこの散らかり様。」
「へぇ…まぁいろいろあるんですね。」
「単刀直入に話したんや。あんた曽我遼平から定期的に荷物もらっとるやろって。其れの中身は何やって。」
「はい。」
「ほしたらどういったと思う。曽我って誰ですかやって。」
「え…なんですかそのスットボケ。」
「ほうやろ。もうちょっと上手いこと話せばいいがいや。」
「せめて曽我の存在と荷物の定期的受け取りを認めて、その中身についてはプライバシーに関するものって具合に言ってくれれば。」
「おいや。別にワシは荷物の中身には興味はない。天宮が曽我と定期的に連絡を取り合っとるってところから、現在の二人の関係をいろいろ探り、そこから光定との関係に行きたかったんや。其れなんにいきなり『曽我って誰ですか』やし。」
「どう攻めたんですか。」
「それが…。どうも本当に天宮の記憶にないみたいねんて。」
「え?」
「嘘みたいな話やろ。」
「あのー古田さん。そんなわけがないじゃないですか。」
「そんなわけがない。」
「でしょ。」
「ほやけど本当に天宮は曽我の存在が記憶から消えとる。」
「は?」
「ワシが石大での天宮と曽我の関係を説明しても、曽我の顔写真を見せても、天宮の表情は本当に鳩が豆鉄砲を食ったようなもんなんや。」
「まさか。」
「そこでワシはあいつの認知症を疑った。今日の日付、現在の時間を聞くとすらすら。で、さすがその手の専門医。自分を認知症って疑うなって言って、逆にワシが認知症じゃないかって同じこと尋ねられた。」
「で、古田さんはどうだったんですか。」
「だら。ワシはまだそんなんになっとらんわ。」
「あ、そう。」
「天宮が問題ないって言っとった。」

相馬は古田を信頼している。
しかし先程から話される内容があまりにも信じられないものだったので、瞬間的に申し訳ないが天宮同様、認知症を疑った。でもそれは杞憂だったようだ。

「知りません。記憶にないって言うときの天宮の様子は、ワシが見る限りあれはホンマモンや。」
「でも、その記憶にない曽我から天宮は定期的にブツを受け取っとるんですよね。」
「ほうや。宅配業者の履歴を調べる限りそれは間違いない。」
「天宮のやつ、演劇とかの経験があるとか。」
「いやあれは演技で表現できる感じじゃない。ワシの長年の経験がそう感じさせる。」
「じゃあどういうことなんですか。」
「わからん。とにかく天宮の記憶から曽我遼平に関するものだけがすっぽりと消え失せとるんや。」
「曽我に関するものだけ?」
「おう。んで曽我に関してはとりあえずこれ以上無理やということで、光定のことを聞いた。」
「どうでした?」
「光定のことを人間的に素晴らしい、包容力に満ち溢れたメシアと言った。」
「メシア…。救世主ってことですか。」
「そう。天宮は光定を東一の支配から解放することで、ヤツのメシアとしての能力を解き放った的なことを言っとった。」
「えぇ…なんか、かなり宗教色が出てきましたね。」
「んで光定が持っとった目の写真について天宮にぶつけた。なんかヤバい力を持っとるようですねって。そしたらなんて言ったと思う。」
「いやわかりません。」
「その目が神やって。」
「神…。」
「そこでインターホンが鳴ってPM乱入。調べは強制終了ってわけや。」
「天宮の奴、古田さんの目の前で通報したんですか。」
「いやワシはあいつが携帯触ったのを見とらん。」
「えっ。」
「えっやろ。」
「どうやって…。」
「たぶん誰かがそこにおった。」
「誰かが居るって…。」
「奥方かもしれん。つまり。天宮はワシがここに来ることを事前に察知しとったとも考えられる。」
「事前に知っとったから、誰かを家の奥に押し込んで適当なところで通報ですか。」
「おう。PMにしょっぴかれる際に玄関の履物見ても、散らかっとってどれが誰の履きもんか分からん有様やった。いま思えばあれも誰が家におるか分からんようにするための細工なんかもしれん。」
「だとしたら今、自分がもう一回ここで天宮の家にカチコミ入れたらわかりますね。」
「そういうことやな。」
「やりましょう。」
「頼めっか。」
「はい。」
「ほやけど木下もやぞ。」
「もちろん。それぐらい捌きます。」
「さすが特高。」

電話を切った相馬は物陰に身を潜めた。

前方100m先に古い2階建てのアパートがある。
その2階の一室のインターホンを押して、住人の所在を探る三波の姿があった。
何度かインターホンを押すも反応はない。
しばらくして三波は車に乗り、姿を消した。

「誰の家や…。」

三波がいなくなったのを確認して相馬はその部屋の前に立った。
表札には名前が書かれていない。

「病院出てそのままここに直行。なんねんろ。気になる…。」

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