第51話



「でも朝戸は僕の友人でもある。最後にもう一度だけクイーンとナイトではなく光定と朝戸で会わせてくれないか。」

この文面を見て空閑は動きを止めた。

「どうしたんだ。険しい顔してさ。」
「あ…あぁ…。」
「だれだよ。さっっきから。」
「あ…いや、塾生の保護者。」
「へぇ。お客さんのフォローってわけ?」
「まぁそんなところ。」
「どうなの?お前ンところの業界。」
「ん〜…厳しい。競争がきつくってさ。」
「あれか?値下げ競争的な。」
「一時期はそうでもなかったけど、最近はその傾向が如実に出てきてる。」
「デフレ再突入か。」
「そうだろうな。」
「ふぅ…また俺らみたいな連中が大量生産されるってわけか。」
「このままいけばそうなる可能性は高い。」
「ぶっ殺せばいいさ。」
「うん?」
「ビショップ、お前の競争相手も、デフレを引き起こす連中もみんな殺してしまえばいい。そうすりゃ問題解決さ。」
「まぁ…な。」
「まずは手始めにお前んところの競争相手を消そう。」
「まてよ。そんなことするとあっという間に足がつく。」
「あ…そうか。」

空閑と朝戸は郊外のコーヒーチェーン店にいた。
仕切りによってプライベートスペースが保たれる親切設計の空間。
周囲は適度に騒がしく、よほど注意して耳を澄ませないと会話は漏れ聞こえない。

「しっかし金沢に来てまでこの店に入るとはね。」
「こういう何の変哲もない場所が俺らみたいな人間にとって一番くつろげる。」
「確かにそうだけどさ。せっかくだから金沢のご当地グルメ的なもんも色々食べてみたいんだけどな。」
「カレーとか?」
「金沢カレーはいいや。東京でも食べられる。」
「じゃ回転寿司だな。」
「お、いいね。」
「いい店知ってる。夜はそこにすればいいんじゃないか。」
「うんそうする。ってか、そういや夜はビショップ、お前仕事だよな。」
「あぁ…悪い。」
「キングは?キング合流できないかな。」
「キング?」
「ああ。」
「うーん…。」
「どうだ?」

しばらく考えた空閑はゆっくりと口を開いた。

「あのそれ…光定もか。」
「光定?…誰だそれ。」
「…え?」
「なんだそれ…。」
「…えーと…違ったかな。」

朝戸は額に手を当てて考えた。

「光定…。誰だ?聞いたこと…ないな…。」
「あ悪い。多分おれ何か勘違いしてたみたい。」
「だろ。そうだろ。俺そんなやつの名前聞いたことないぞ。…でもなんか、もうひとり忘れてるような気が…。」
「クイーン。」
「クイーン?え?そんな奴いたっけ?」
「おいおい。忘れちまったのか。」
「覚えてねぇな…。」
「あれ、あ、そうか。そうだった。そいつは別件の奴だったよ。あーごめんごめん。俺のほうがどうかしてた。」
「おいおい。ビショップさぁ、お前なんか変だぞ。俺の心配なんかよりも自分の心配したほうがいいんじゃないか?」
「あ…そうかな…。」
「医者に見てもらえよ。」

衝撃音

「医者?」

朝戸の動きが止まった。

「医者…。なんだこの変な感じ…。」
「どうした?」
「医者…医者…医者…。」

朝戸は頭を抱えた。

ー安定しないな…。

「おい大丈夫か。また頭痛か?」
「いや…頭は大丈夫…。でもなんか…脳みそのどこかに何かが引っかかってるような。」

ーおいおい頼むぞ…。このままだと何かのはずみで記憶が戻るかもしれない。となれば症状が比較的落ち着いているいまのうちに決行するのが上策。

「ナイト。やっぱり疲れてんだよお前。今日はこのまま宿に帰ってゆっくりしろ。そうすりゃきっと楽になるさ。」
「…そうだな。」
「キングには俺から都合きいてみるから、それまでは休んでな。」
「すまない。そうするよ。」

こう言って空閑は立ち上がった。

「ん?どうした?」
「あ、車に忘れ物した。すぐ戻る。」

彼は一旦席を外した。

ー朝戸の記憶からはクイーンもそうだけど、光定公信自体の記憶が消えている。これじゃ二人をひき合わせてもどうにもならない…。

携帯を手にした空閑は光定のものに返信を打ち始めた。

「無理だ。できない。」

送信ボタンを押下した彼は思わずため息をついた。
ふと窓の外を眺めると、降っていた雨脚が強くなってきていた。

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