第55話




「たった今入ったニュースです。」

テレビの人物がこう言うと、画面下に「大学キャンパスで立てこもり事件」の文字が表示された。

「今日、正午ごろ東京目黒区の大学キャンパスで男が人質をとって立てこもる事件が発生しました。現在警察は犯人の説得を試みていますが負傷者がでているようです。今日正午ごろ、東京目黒区にある大学キャンパスで、突然男が騒ぎ出し、刃物をもって暴れだしました。大学関係者がその場に駆けつけ、男を取り押さえようとしたところ、男はそれを振り切り、女性を人質にとって教室内に立てこもったようです。取り押さえようとした際、大学関係者の中に数名の負傷者が出ており、内、一名が現在重体であるとの情報も入ってきています。男が立てこもる教室内には人質に取られた女性以外に複数名の男女が閉じ込められているようで、現在警察では人質の解放を犯人に呼びかけています。」

「おいおい…なんだこれ…。」

テレビを見ていた黒田が唖然とした表情で呟いた。
それに側にいた三波が応える。

「…病院の中でノビチョク巻かれたり、車が群衆に突っ込んだり、無差別通り魔事件があったり、今度は大学で人質事件…。この立て続けっぷりは異常ですね…。」
「ノビチョクも車が突っ込むのも、通り魔もド級の事件。それが連発。どうなってんだよ東京は…。」
「それにしてもこうも次から次ですと、報道する側もその整理が大変ですね。」
「俺らみたいなネットメディアならニュース別に少数で随時更新で対応できるけど、地上波みたいな速報性を求められる媒体は大量の人員を投入しなきゃいけない。」
「でもいくらキー局でも人員は限られていますからね。それに連発するド級のネタを追っかけるのに二正面、三正面作戦を要求される。戦力は分散されどれも中途半端なことになる。」
「質の低下が問題視されている地上波報道はこれでさらに質の低下が露呈することになるかもな。」
「商売敵が勝手に落ちるのは結構ですけど、その分自分らネットメディアの実力が試されるってことですね。」
「厳しいな。」
「はい。」
「そんな中、ウチの制作司令官のヤスさんがおかしな動きをしてるってわけだ…。」

そう言って黒田はテレビから視線を逸した。

「で、キーワードは1年前と急性骨髄性白血病。だね。」
「はい。」
「息子さんのその病気が発端でヤスさんの様子がおかしくなった。それは間違いなさそうだな。」
「はい。ただ、実際のところ安井さんが仕事選んでうちの会社で何をコソコソやってんのか、具体的なところを突き止められていないのが弱いですが。」
「まぁでも大岡と個人的に接触してるのは確かだ。ヤスさん追っかけても何も出てこないってのなら、その周辺を洗うことで手がかりが掴めるかもね。」
「そうですね。」
「わかった。大岡の事はこっちに任せてくれ。あとヤスさんが息子さんの病気のこと、会社の総務とか労務に相談してないか調べてみる。もしも相談してるようだったら、その時の記録からヤスさんの心境とか考えを探れるかもしれないからな。」
「お願いします。」

再び黒田はテレビを見る。人質事件の中継映像が流れている。
大学キャンパスの周囲には黄色の規制テープは張り巡らされ、赤色灯が明滅していた。

「キャップ。」
「はい。」
「きっと自分一人で何かを抱え込んでるんだと思うよ。ヤスさんのことだから。」
「何かって?」
「わかんない。何かだよ何か。」
「…そう思いたいです。」
「でもそういった希望の類いはとりあえず横に置いておくな。俺ら一応報道の人間だからさ。」
「…はい。」
「デスク!」

記者の一人が受話器のマイク部分を手で抑えて黒田を呼んだ。

「何だ。」
「コロシみたいっす。」
「コロシ?」
「はい。ガイシャは石大病院の天宮名誉教授。自宅で発見されたそうっす。」
「え?大学病院の医者が?」
「はい。現在大学病院で検死中らしいっす。」
「ホシは?」
「捜査中です。」

黒田は三波を顔を見合わせた。

「今度は東京じゃなくてこっちかよ…。」
「まさか東京からこっちまで火の粉が飛んできた的なやつですかね。」
「そうじゃなければ良いんだけどさ。」
「デスク。自分行きます。」
「え?」
「さっきまで俺がいた石大でしょ。何かのご縁です。自分が行きます。」
「何だそれ。」
「じゃ。」
「待て待て。キャップ。キャップはここで記者の指揮を取れ。石大は京子に行かせろ。」
「京子?」
「うん。京子に行かせろ。」
「え…。でもあいつ特集抱えてるじゃないですか。しかも明日配信でしょ。」
「ああ。明日の配信から連チャンで3回ほど配信する予定さ、でもそれはそれ。あいつにも現場手伝ってもらおう。」

「三波さん。」
「なんだよ…。」
「ここで俺に会ったことは京子には内緒にしておいてください。」43

「あ…いや…この件は自分がやります。」
「なんでさ。」
「自分がやらないといけない気がするんです。」
「何そのぼやっとした理由。」

「京子は知らないんだ。お前の病気。」
「はい。」
「…言えねぇよな。」
「はい…。」
「大事な人ほど言えない。わかるよ。」
「…。」43

「いいから!俺がやりますよ!」

三波の剣幕に黒田とその周囲は静まり返った。

「とにかくコロシは自分が引き受けます。」
「わ…わかった…。」
「ヤスさんも石大も自分がやります。京子は寄越さないでください。」

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