第64話



椎名は片倉を後ろ姿を見送って駐車場の方に移動した。

ーなんだ…領収書切るって…。
ーあ…そうか。俺が仕事を請け負って、その見返りに金を貰う。確かに受け取りましたって証拠が、ちゃんフリにいるってことか。じゃないと金の動きがわかんないもんな。なるほど、買い物のたびに貰うあの紙ペラを俺が発行しないとこの手の副業も成立しないってことか。全く几帳面な商習慣だよ。
ーまさか今日の俺、京子に怪しまれてないだろうな…。いい歳こいてそんな商習慣も知らないのはおかしいって思われてないだろうな…。

車に乗り込んだ椎名はため息を付いた。

「やっぱり俺が誰かと接触するとどこかでボロがでる可能性がある。やっぱりプランC(エス)に切り替えよう。とにかくぐちゃぐちゃにすれば良いんだ。」

携帯でSNSをチェックすると、大学立てこもり事件の話題は収束し、今度は神奈川県で銃の乱射事件があったとの話題で持ちきりだった。ここ数日の立て続けの凶悪事件の発生で世論はなにかの異変を感じ取ったのか、SNS上で混乱を感じとることができた。椎名がSNSを開いてものの3分も経たないうちに、今度は大阪でも自家用車の暴走、続いて福岡で異臭騒ぎと凶悪事件の連鎖が起こっていた。

「足りない。」

SNSのタイムラインを眺めるも、凶悪事件は連鎖的に多発しているが被害者が出たという報道には未だ触れていない。どれもが犯人逃亡もしくは自殺である。

「あと一歩足りない。」

エンジンを掛けるとダッシュボードに時計が表示された。

「ビショップは塾か…。」

「頼む。で、ナイトはいまどうしてる?」
「多分宿で休んでると思う。それか回転寿司だ。」
「寿司?」
「金沢名物を食いたいとかで店、紹介した。よかったら連絡とってやれよ。会いたがってたぜ。」
「あ、あぁ…。」
「まぁそれよりもKの件か。」
「それはまた別の方法で報告する。」
「了解。」58

椎名は携帯を耳に当てた。

「もしもしナイト?今どこにいるの?」
「キング?」
「うん。」
「あ、今さ金沢駅の回転寿司にいる。」
「ひとりでかな。」
「うん。ビショップは仕事があるらしいしさ。キングは仕事終わったの?」
「あぁ終わったんだけどさ…。」
「けどさ?」
「あぁ…ちょっと動けないんだ。」
「動けないって?」
「警察がうろついてる。」
「警察…。」
「だからせっかくなんだけど俺、ナイトと会えない。」
「クソが…。」

ナイトの声色が変わった。

「すまない。」
「なんでキングが謝んだ。別はキングは悪くないだろ。悪いのはポリだ。」
「おいおい…いま寿司屋だろ落ち着け。せっかくのうまい飯が台無しになる。」
「あ…。」
「落ち着け。な。」
「あぁ…悪い。」
「とにかくいまの俺はいつもより自由が制限されてる状態なんだ。」
「で、俺にできることは。」
「やってくれ。」
「…。」
「今週末。」
「急だね。」
「うん。いま思いついた。」
「どうしたの。らしくない。」
「もういいんだ。急にどうでもよくなった。」
「キング…。」
「俺も動く。ビショップにも動いてもらう。」
「俺の道具は。」
「何が良い?用意させる。」
「目立つやつが良い。」
「目立つやつね。」
「目立って俺みたいな素人にも使いやすいやつで。」
「了解。用意する。」
「…キング。」
「なに?」
「ありがとう。」

電話は切られた。

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高台の中腹に位置する車の中。運転席に座って双眼鏡を覗き込みながらBluetoothヘッドフォンを使用して電話をする男がいる。

「どう?」
「全然動きありません。それよりも社長。」
「なに?」
「自分ひとりだと無理っすよ。この張り込みってやつ。」
「え?」
「だってほらトイレとか飯とか、なんだかんだって俺、離脱することあります。」
「あ、そうだね…。」
「だから応援よこしてください。」
「わかった。すぐ手配する。」
「おねがいしまーす。」

電話を切る音

「ふーっ。」

ため息を付いた彼は双眼鏡から目をそらした。

「張り込みってただ観察するだけで、どんだけ楽でうまい仕事だって思ってたけど、こんなに退屈でしんどいとはね。」

タバコの音
ふと外の様子を眺めると夜の帳は下りつつあった。

「やべぇ。もうじき見えなくなるなこりゃ。もっと近くに寄るか。」

彼は車のエンジンを掛けた。
その時である、自分の右側にただならぬ気配を感じたため、彼は運転席側の窓の外を見た。
何もない。

「気のせいか…。」

気を取り直してハンドルを握ろうとした刹那だった。

「なにか面白いものあった?」

助手席に男が座っていた。

「ひっ!」
「ビビんなって。」
「だ!誰だよ!お前!」
「応援だよ応援。」
「へ?」
「社長から言われてきたんだって。」
「は?ありえねぇ。ついさっきだぜ社長に応援要請したの。」

助手席の男は黙った。

「おい。てめぇ…。なんとか言えよ…。」

助手席の男は懐から拳銃のようなものを取り出した。

「え?」
「ばーん!」
「…。」

運転席の男は気を失ってしまった。

「…そりゃそうだよな。この展開、殺されるフラグ立ちまくりだからな。」

男は携帯を取り出した。

「もしもし。」
「社長。神谷です。合流しました。」
「遅いよ…やっと本体の登場? 雨澤くんは?」
「ちょっと気絶してます。」
「気絶?」
「ええ。」
「あの…神谷くん。あんまり手荒なことはしないでくれる?そもそも君が遅刻したのが原因なんだよ。」
「ごめんなさい。」
「はぁ…。」
「それはそうと日も沈んできたんで、曽我の家の近くで張ります。」
「雨澤くんの報告だと、曽我は無事家の中に入ったそうだ。」
「了解。これから近くで張ります。」
「そういやクライアントさん、びっくりしてたよ。」
「ははっそうでしょうね。」
「まさかキャリアの道捨てて、民間に行ってるとは思ってなかったみたい。」
「しかも因縁浅からぬIT企業のエンジニア。かつての被疑者の下で雇われる身分ですから。」
「ウチは仕事の中身で判断してるから。かつての因縁とかはどうでもいいんだ。」
「それが社長の良いところです。」
「ダイバーシティが当社の社風だよ。」
「そうですね。ではまた報告します。」

神谷は運転席を見る。
雨澤はまだ気絶したままだ。

ビンタ音

「痛てっ!」
「行くよ。」

目を覚ました雨澤の目に拳銃の姿が飛び込んだ。

「あ、あ、あ…。」
「あぁ心配しないで。これおもちゃだから。」
「え?おもちゃ?」
「うん。君、これみて意識飛んだみたい。」
「…てめぇ。ぶっ殺す!」

雨澤は殴りかかったが、それはあえなくいなされ、逆にその腕を決められた。

「あ…イタタタた!」
「いい?君と俺とじゃ勝負にならないの。」
「はい!勝負になりません!すいません。ごめんなさい!」
「車出してもらえる?」
「は?なんで俺が?てめぇの運ちゃんなんか…。あ!イタタタた!」
「出してもらえる?」
「は、はい!よろこんで!」
「良かったいい人で。」
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