第82話【後編】



「はい小早川です。あぁ部長。…そうですね。まぁ一ヶ月程度はやはり見てもらわないと。それにしても部長も人が悪い。私のことをヒアリングする人間をよこすならよこすで、事前に言ってくれればそれなりに対応したのに。…え?そんな人間派遣していない?」

小早川の顔つきが変わった。

「じゃあ、いま私の目の前にいる中村って誰なんですか。」
「…。」
「…ええ。はい。いま私の研究室に居ます。」
「…。」
「休み?はぁ…ほう…。あぁなるほど…そうなんですか。仕事熱心な人材なんですね。ええ、わかりましたよ。いえ、無礼ではありません。むしろ優秀じゃないですか。」

電話を切る音

「部長びっくりしてましたよ。」
「え…。」
「あなたが有給休暇使ってまで秘密裏に動いているって知って。」
「あ、あぁ、そうですか。」
「プロパー組を説得させる材料を私から得るために、わざわざ有給使ってここに来たんでしょう。」
「はい。」
「やはりあなたは只者じゃないですね。石川に赴任した際は悪くしません。」
「ありがとうございます。」

小早川の表情を見る限り、彼はすっかり三波に心を開いたように受け止められた。
これからもこの男との関係を良くしたい。それは今後の人生にプラスになるはずだ。
石川大学の中村であればそう思うだろう。
だが三波は中村ではない。

「先生。」
「なんです。」
「個人的な関心事なんですが聞いてもよろしいでしょうか。」
「どうぞ。」
「ウルトラの研究はその後どうなっていますか。」
「ウルトラ?」

二人の間に沈黙が流れた。

「あなたなぜそれを。」
「実は昔、あなたの著作を読んだことがありまして。」
「え?」
「MKウルトラ異聞です。」
「え?本当に?」
「本屋にはオカルト本のコーナーに陳列されていましたが、私はこれがどうもただのオカルトとは思えませんで。なにせ米国で実験されていた数々の洗脳実験を網羅してたんですから。」
「ククク…。」
「どうしました?」
「いやぁ…嬉しい。」
「嬉しい?」
「ええ。そのMKウルトラ異聞という著作は実は私にとっての最高傑作でしてね。しかし全然売れなかった。でもやはり私の思いを受け止めてくれてた読者さんがここに居たんですね。」
「名著ですよあれは。」
「中村さんはご存知かどうかわかりませんが、その監修には天宮先生にお願いしています。」
「え?天宮先生が監修?そうだったんですか。そのあたりまでは把握していませんでした。…ということは天宮先生もこの中にある某国による洗脳実験について先生と一緒に研究をされていた?」
「ええ。」
「ちなみにこの中にある米国で行われていたウルトラを別の形で引き継いで研究している某国というのは、どこなんですか。」
「どこだと思います?」
「ソビエト連邦。」
「正解。」
「やはり。」
「しかし1991年にソ連は崩壊。」
「本が書かれたのが1988年。その3年後にソ連崩壊ですか。そこでこのMKウルトラというものが消えた。」
「いえ。」
「え?」
「ソ連の研究者はその後ツヴァイスタンに亡命しました。」
「え…まさか…。」
「そう。このウルトラはまだツヴァイスタンの管理の元で研究されています。」
「本当ですか!」

三波は興奮を隠しきれない様子だ。

「中村さん。どうしたんですか。」
「いえ…なんだかドキドキしてきてしまって…。」
「なんで?」
「だって幼い頃、信じてたことが世間からオカルトって言われて迫害されてきたのに、ここにきて偶然その真実を関係者本人から聞けたんです。興奮しないわけがありません。」

この発言に小早川はさらに気分を良くしたのか饒舌になった。

「中村さん。」
「はい。」
「教えてもいいですよ。」
「何を?」
「ウルトラ。いまも研究してるんです。」
「え、えぇツヴァイスタンでですよね。」
「いいえ。」
「はい?」
「私はツヴァイスタンの管理の元で研究されていると言いました。」
「はい…。」
「ツヴァイスタン本国で研究しているとは一言も言っていません。」
「え…?」
「興味ありますか?」
「は…はい!もちろん。」
「いいでしょう。お見せします。」

そう言って小早川は携帯を取り出して電話をかけ始めた。

「もしもし…あぁ先程は…。」

ー先ほど?まさか俺と入れ違いで出ていった奴のこと言ってるのか?

三波は目の前で電話をかけ始めた小早川の様子をそれとなく観察した。

「同志を一人追加したいんですが。」

ー同志?

「…ええ。石川大学の人事の人間です。名前は中村…。あ、ちょっとまってください。」

こう言うと小早川は三波から渡された名刺を手にした。

「中村文也。石川大学病院部総務人事課です。さきほど上司である病院部長さんにもこの中村さんの確認取りました。問題のない人物のようです。」

ーおい…小早川とこの電話の先の奴、どういう関係なんだ。それに石川大学の病院部長までまさか噛んでるっていうのかよ…。

「はい…はい…。…そうですか…そちらで確認を取らないことには無理ですか。」

電話のマイク部分を手で覆った小早川はこちらの方を見た。

「中村さん。残念だけどこれから先は私が石川大学に行ってからになりそうです。」
「あ…そうですか…。」

三波は残念そうにうなだれた。
それを見た小早川は電話を続ける。

「そこをなんとかできませんか。なかなか有望な人材でして。今日も石大のプロパーの人間を調整をするための材料をとるため、有給使ってまでわざわざこの東京まで来てるんですよ。…ええ。しかも彼、個人的な読者だったんです。…はい。そうですか…やはり無理ですか…。わかりました。はい。そのように。」

電話を切った小早川はため息を付いた。

「駄目でしたか?」
「はい。」
「どういったお方なんですか。」
「すいません。それは言えません。」

ーこれ以上深入りはしないほうが良さそうだ。ヤバい臭いしかしない…。

「曽我先生がなくなったのは残念でした…。」

唐突に話題を変えた小早川だった。

「あ、はい。」
「でも火は消えていない。」
「…なんですか、それ。」
「私が言えるのはここまでです。今度は石川でお会いしましょう。そこなら遠慮なくあなたと楽しく話せそうですから。」

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