第18話 後半

3-18-2.mp3 テレビをつけると東京で起こったテロ事件に関する報道番組が流れている。 リモコンで他のチャンネルを選択するもどこの局も特別編成の番組を放送していた。 いま世の中はこの話題で持ちきりだ。 椎名はテレビをつけたままキッチン壁に背を向けて椅子に腰を掛け、携帯を触りだした。 ー誰か入った…。 彼の顔は携帯の液晶画面に向いているが、視線は部屋の真ん中の床にあった。 ー部屋の真ん中に落とした3本の髪の毛。うち1本がどこかに消えている…。 椎名は背伸びをした。 「ん〜…。」 再び彼はテレビの前に立ち画面を見るふりをして、視線だけを部屋全体に移動させた。 ー何をした…。カメラの位置を変えたか…。それとも盗聴マイクでもいじったか…。 目だけで部屋を調べたところ不審な点はない。 「えー新しい情報が入りました。警察によりますと今回テロに使用されたのはノビチョクといわれる神経剤のようです。繰り返します。今回東倉病院において発生したテロ事件で使用されたのはノビチョクであるとのことです。ノビチョクは旧ソ連が開発したとされる神経剤の一種で、その毒性は…VXガスの5倍から8倍はある…とのことです。あの…垂石(たるいし)さん…ノビチョクって…。」 報道番組の司会者がコメンテーターに振る。 「…ええ。英国でその神経剤が使用された暗殺事件があったのは記憶にあたらしいところです…。」 「あのときは確か事件の背景にツヴァイスタンがとか……

続きを読む

第18話 前半

「大丈夫です。心配ありません。この調子なら雄大くんは石大ぐらいの国立は楽勝ですよ。」 「そうですか…先生がそう言われるなら...安心しました。」 「お父様は心配症ですね。」 「…よく言われます。」 「'`,、('∀`) '`,、 」 ここ空閑教室では我が子の入試対策の進捗ぶりを確認するために、保護者が講師である空閑と面談する機会が定期的に設けられている。今日も夜の9時という遅い時間にもかかわらず、保護者面談が行われていた。 「ところで雄大くんはお家ではどんな感じなんですか?」 「家では自分の部屋にこもっていて、基本的にそこから出てくることはありません。」 「…お父様との会話は?」 「学校関係とかここのとかの報告、連絡はしてくれます。ですが日常的な他愛もない話とかはほとんどすることはありません。」 「…そうですか。」 「雄大には学業に専念してもらうために、家事は私が全部やっています。あの子は学校とこの塾で勉強だけやればいい。そういう環境を整えているつもりです。ですが…やはり時々心を閉ざす傾向があるようです。」 「…。確かにお父様は頑張ってらっしゃる。奥様と離縁されてからも男でひとつで雄大くんをここまでにしたんだ。頭が下がります。」 「あぁありがとうございます。」 「正直な感想ですよ。」 「しかし…親の苦労子知らずですかね。」 「いけません。」 「ん?」 「いけませんよ。お父様。そんなことは思っていても口に出しちゃいけません。」 「あ…すいません。」 「…

続きを読む

第17話

3-17.mp3 ドアを閉める音。 洗面所に走ってそこで手を洗い、うがいを激しく行う。 「はぁはぁ…はぁ…」 息を切らす。しばらくしてそれは収まりつつあった。 ーあれ?なんで俺、ここで手ぇ洗ってんだ…。 携帯電話を取り出してそれを見る。 時刻は16時半だ。 「…えっと…俺、何やってたんだっけ…。」 携帯のメッセージ履歴を確認するも今日の昼から今に至るまで、自分以外の誰とも連絡をとった形跡がない。 そこで彼は通話履歴を見た。 どうやら今日の朝に電話をしたようだ。 「キング…。」 そう言うと彼は頭を抱えた。 「確か…朝早くにキングと電話した。けど俺…あいつと何話してたっけ…。」 激しい頭痛が彼を襲ったため、手にしていた携帯を床に落としてしまった。 回想 携帯が震える 再びそれを手にした彼の動きは止まった。 「紗季…。」 「慶太どうしたの?大丈夫?」 扉越しに心配そうな声で彼の名を呼ぶ声が聞こえた。母である。 「え、いや…なんでもないよ。」 彼はとっさに携帯をポケットにしまった。 「なんでもないって…何か落ちた音したわよ。」 「そ…そう?」 「それに帰ってきたと思ったらドカドカって乱暴に洗面所に駆け込んで。」 「あ…そうなの?」 「そうなの?って本当に大丈夫。」 「あ…う、うん。大丈夫だよ。心配しないで。」 「心配するわよ。紗季の名前つぶやいてるし…。」 「紗季の名前…

続きを読む